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表紙

誓いは牢獄で  36


「それが何か?」
 眉一つ動かさずに、コーネリアは訊き返した。
 いざとなると、女のほうがしぶといと言われている。 度胸を決めたコーネリアは、平然とホリスを見つめて言葉を継いだ。
「ジョン・バーンズという名前の男性が、このイングランドに何人いると思います? ブラセット村にも、コーンウェル川の向こうにも、バーンズという一家が住んでますよ。 どこにでもある名前です」
 ホリスはちょっとたじろぎ、むきになった。
「しかし、コーネリア・ランズフォードを尋ね歩くジョン・バーンズは、そう多くないでしょう。 おまけに、その男はブラセット村からここに来る間のどこかで、煙のように消えてしまったんですよ。 不思議じゃないですか」
「私の夫は旅に出たばかりです」
 コーネリアは、できるだけ声に確信を込めて言い張った。
「遠い異国へ出帆した船が、たった数日で戻ってきますか?」
 ホリスは顔をしかめた。
「船舶詐欺の話を聞きましたよ。 金持ちにうまいこと言って資金を出させ、船に乗っていって、海上で売るんです。 奴らはその船を海賊稼業に使うってわけです。
 まあ、そこまではしないにしても、港を出て運悪く難破する船は、後を絶ちませんからね。 ひょっとして、あなたの大切なご主人が、商売の失敗で破産して、尾羽打ち枯らして助けを求めに来たのかと思ってね。 そのジョン・バーンズは、えらく貧しい身なりをしていたそうですから」

 コーネリアは強気に言い返した。
「そんなはずはないと思いますけど、もしそうでも私は喜んで迎えますわ。 夫ですから」
「バーンズ氏が多額の借金を背負っていても? 外国貿易は、国内の取引より数倍資金が要ります。 その上、嵐や海賊が襲ってくるし、取引先が外国人ですから騙されることもある。 夫の作った借金のかたに、美しい領地を失ってもいいんですか?」
 ホリスの眼の奥が、ずるそうに光った。
「そんなことになるぐらいなら、いっそバーンズ氏が、事故か何かで世を去ってくれればいいのに、とは思いませんか?」










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