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表紙

誓いは牢獄で  35


「従兄弟の方は、あなたを死刑にしてまで領地を手に入れたいと?」
 バージルの静かな問いに、コーネリアは唇を震わせた。
「そう思うかもしれません。 従兄弟の住む土地は痩せていて、収入が少ないですから」
 バージルは頷き、考え込みながら、ぽつりと言った。
「では、我々はすぐ出発します。 そのホリスという人が、あなたに危害を加えないことを願います」


 自分で言い出しておきながら、その答えを聞いたとき、コーネリアは強い衝撃を受けた。 不安と孤独で押しつぶされそうな気がした。 この二人は若く頼もしい。 ホリスと対決するとき、傍にいてもらえたら……。
 自分の甘えに気付いて、コーネリアは萎えそうな膝を立て直し、背中をまっすぐにした。 領地を一人で好きなように管理したいと願ったのは他ならぬ私自身だ。 どんなに苦しくても、自力で乗り切らねば。


 間もなく、コーネリアの馬車が用意された。 長官夫妻に慌しく別れを告げて、庭の門を出るとき、バージルとトーマスの馬が土埃を立てて道を走り去るのが視界に入った。
 コーネリアの馬車とは違う方角だった。 あっという間に遠ざかる二人の後ろ姿を、コーネリアは見えなくなるまで目で追った。
 自分の視線が右の馬だけにそそがれているのに、コーネリアは間もなく気付いた。 そして、思わず馬車の窓から身を乗り出した。
――待って! そんなに速く走らせないで。 あなたの姿を、少しでも長く見ていたいから――
 もう逢えないというのが信じられなかった。 それ以上に信じられないのが、自分のこの気持ちだった。
 こめかみが熱くしびれた。 一瞬、何もかも捨てて追いかけていきたいと願った。
 そのとき、思い出した。 相手から見れば、自分はただの遊び相手にすぎないことを。




 途中の休憩を少なくしたため、馬車は五時間ちょっとで邸に到着した。 まだ太陽は地平線に残り、玄関から歩み出てきたホリスの顔がはっきり見分けられた。
 すべるように馬車から降りると、コーネリアは大きなフードをはね退けて、ホリスと向き合った。
「不意の訪問ですね」
「失礼とは思いましたが」
 唇の片端を上げて、ホリスは答えた。
「聞き捨てならない話を知らされたので」
「何のことでしょう」
「まあ、中でゆっくり」
 ホリスは舌なめずりしそうな表情になっていた。 不愉快な気持ちを隠さずに、コーネリアは先に立って玄関を入った。
「疲れてますの。 お話は手短に」
「ではさっそく。 先日、ご結婚の話を伺いましたが」
 必要以上に丁寧な言葉を使って、ホリスはコーネリアの反応を楽しんでいるようだった。
「確かご主人の名前は、ジョン・バーンズでしたね?」
「はい」
 コーネリアは悪びれずに答えた。
「それは不思議。 まったく同じ名前の旅人が、ランズフォード邸はどこかとあちこちで尋ねながら、この土地へようやくたどり着いたようですよ」










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