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表紙

誓いは牢獄で  34


 廊下を二度曲がったところに、バージルの部屋はあった。 コーネリアが手早くノックすると、中からいつも通り落ち着いた声がした。
「どうぞ」
 返事に応じてパッと開いたドアの先に、バージルの金色がかった髪だけではなく、濃い茶色の頭も見えた。
 コーネリアは息を引いて顔を隠し、後ろに下がった。 トーマスはその様子を見ると、すぐ軽く一礼して戸口に向かおうとしたが、窓辺にいたバージルが引き止めた。
「君はここにいてくれ。 僕らはあっちの部屋で話すから、誰か来たら適当に追い払ってくれ。 頼む」
「わかった」
 トーマスは、また部屋の中に戻った。 バージルはコーネリアを促して、左のドアを開けた。 そこは召使の控えの間で、バージルたちは誰も連れてきていないため、がらんとしていた。
 部屋に入って、ドアを後ろ手で閉めると、バージルは厳しい表情で振り向いた。
「どうしたんです? 何をこそこそする必要が?」
「噂が立ったら困るからです。 あなたとトーマス卿はあくまでも私のお友達。 そうしておかないと、大変なことになるかもしれないんです!」
 バージルは、二歩でコーネリアのところまで行くと、腕に手を置いた。 眼が真剣な色をたたえた。
「良心の呵責など要りませんよ。 昨夜のことは夢だと言ったでしょう?」
「いえ、そうではないんです。 従兄弟のホリスが……私に結婚を断わられた人なんですが、留守に戻ってきて、邸を調べているんです」
 話している内にも不安に駆られて、コーネリアは痙攣しそうな頬に手を当てた。
「もうとっくに故郷へ帰ったと思ったのに……」
 バージルの表情が、研ぎ澄まされたように鋭くなった。
「その男は、何か嗅ぎつけたんですか?」
「多分。 バーンズは、うちに来るとき、あちこちで道を訊いたようです。 そのとき、名前を出して自慢したかもしれません」
 コーネリアの腕を握るバージルの指に、力が入った。
「どこまで屑なんだ、あいつは!」
「私はこれから家に戻ります。 あなたも故郷にお帰りになるのでしょうが、私とは何もなかったことにしてください。 万一、役人が調べに行ったら、礼儀など構わず、私をけなして、あんな女はよく知らないし興味もないとはっきり言って!」
 バージルの目が、わずかに細まった。
「どういうことです?」
「わかりませんか? もし事が露見して、あなたが私を助けようとしたら、ホリスはすぐに思うでしょう。 二人が愛人同士で、共謀して邪魔な夫を殺したと」
 バージルは、黙ったままコーネリアを見つめていた。 コーネリアは、やっきになって言葉を続けた。
「死体さえ見つからなければ、ごまかせると思うんです。 あの男が屋敷に到着したのは真夜中でした。 入ってくるところを見た者はいないでしょうし」
「もし見つかっても、盗んだ物の分け前で喧嘩になって、仲間に殺されたことにすればいい。 よくあることです」
 バージルは、低いながらも語気を強めた。
「刺したのはわたしだ。 危なくなったら、あなたがあいつに殺されかけたことを証言できるよう、一緒にお屋敷へ行かせてください」
「いいえ、あなたを巻き込むことはできません! 夫殺しにされたら、私だけでなくあなたまで死刑にされてしまいます!」










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