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表紙

誓いは牢獄で  31


 男の乾いた熱い右手が、剥き出しになったコーネリアの肩に置かれた。
「仮のご主人を、いつ旅から戻すつもりでした?」
 不意に答えにくいことを訊かれ、コーネリアの頬がかすかに痙攣した。
「秋ごろに、船が沈んだことにしようと」
「本物なら、新妻に土産をたくさん持ってくるところでしょうが」
 バージルの声が、哀愁を帯びた。
「もし選べるなら、あなたは何が欲しいですか? 珍しい東洋の琥珀か、銀細工。 それとも大粒の真珠?」
「私は」
 声が濁った。 コーネリアは詰まった喉を晴らしてから、かぼそく囁いた。
「私の望みは、好きな人と共に、この土地に住み続けることです。 春にはグレーダンの泉に水仙が群れ咲き、夏と秋はモルニーの丘が深緑から黄金色へ染まっていく、わが故郷に」
「欲のない人ですね」
 バージルは、コーネリアの肩に触れた手をそのままに、燭台を窓の縁に置いた。 再び振り向いたとき、彼の群青色の眼は、磨いた碧玉のような光を放っていた。
「では、二人で一夜の夢を見ましょう。 同じ夢かどうかはわかりませんが……」


 バージルの体は艶やかだった。 髪は風になびく麦穂のようにコーネリアの胸に広がり、うなじは健康な仔犬の匂いがした。
 体を重ねて共に動いているうちに、コーネリアは突然、目の前に閃光が走るのを感じた。 同時に、思ってもみない幸福感が満ちあふれてきた。 なぜ若い男女が手に手を取って藁積に隠れるのか、ずっと謎だったが、初めてわかった。
「あなたは美しい」
 不意に耳元で囁かれた。 答える代わりにコーネリアは、ほどけてバージルの顔を覆っている金褐色の髪に、顎に、首筋にキスした。 ただどうしようもなく、キスしたいと思った。









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