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誓いは牢獄で
30
ようやく顔を離すと、バージルは腕の中にすっぽりと収まった柔らかい体を、しっかり抱え直した。 コーネリアの耳を燃える息が覆った。
「あなたはわたしに火をつけた。 簡単には消せませんよ」
そうだろうか。 不意に隙間風が胸に忍び込んで、心を冷やした。 コーネリアは落ちかけていた瞼を上げ、自分に強く言い聞かせた。
――これは情熱なんだ。 恋じゃない。 まして、長く続く愛なんかじゃない――
無邪気に崇拝してくれるトーマスと異なり、バージルが距離を置いて、時に冷ややかなほどの目で自分を観察していることを、コーネリアは逢った当初から感じ取っていた。
これは駆け引きなのだ。 取り引きといってもいい。 太古から男と女の間で続いてきた条件闘争だ。 たとえ情炎でも、溺れたほうが負けだ。 コーネリアは気を引き締めて、動作だけは優しく相手の胸に頬を埋めた。
「あなたといると安らぎます。 舞踏会も北風も、もうどうでもいい気持ちになりますわ」
「では、わたしと来てください」
「ええ、どこへでも」
二人は手を取り合って、テラスの階段を下りた。
建物をぐるりと回り、ぽつんと燈火の灯った裏口から入る頃には、コーネリアの心臓はどんどん鼓動を速め、耐え難いほどに暴れ始めた。
広い階段を忍び足で上り、彫りの入ったドアノブを回して、バージルはコーネリアを部屋へ招き入れた。 月はもう西の空へ下り、部屋はほぼ暗闇だった。
バージルは燭台を手に取って戸口へ引き返し、燈火で火をつけて、戻ってきた。 コーネリアはその間、窓辺のカーテンに手をかけ、夜空に淡く流れる銀河を見やっていた。
彼に悟られるだろうか。 すべてが初めてだということを。
ランズフォード家は近在に抜きん出た大地主で、釣り合う友達がいなかった。 したがって、幼なじみの男性もいない。 若い男の知り合いといえば、たまに訪れるホリスぐらいだが、仲良しどころか、手を握ったこともなかった。
だから、バージルが燭台を掲げて近づいてきたとき、コーネリアは緊張で脚が震え出しそうになっていた。
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