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表紙

誓いは牢獄で  29


 北の空から、一陣の風が吹き降りて、かがり火を揺らした。
 春はまだ浅い。 空気の流れはしびれるような冷たさのまま、容赦なくコーネリアのショールを巻き上げた。
 バージルは、持ち前の黒ずんだ青の眼で、コーネリアのわずかな震えを見てとった。
「わたしは石像より固く沈黙を守ります。 ここは冷える。 心配なさらないで中へお入りなさい」
「もう一つだけ! 後でわかったことがあります。 バーンズという男は泥棒でした。 私と鉢合わせする前に、父の遺品をいくつか服に隠していたのです」
 バージルは目を閉じて、ゆっくりと眉間を揉んだ。
「ろくでなしめが!」
 彼には珍しいほど苦々しい声音だった。
 コーネリアはドアへ戻ろうとせず、逆に前へ出てバージルに寄り添った。 ここで引き下がるわけにはいかないと思った。 子供のようにいたわられ、あしらわれたままでは心もとない。 それに、女としてちょっと癪に障った。
「昨夜は一睡もできませんでした。 祖父が亡くなってからは、何もかも自分の力で切り盛りしようとしてきましたが、それには限界があると悟りました」
 二人の距離がぐっと縮まり、白い息が混じりあった。
「女にとって貴重なのは、守ってくれる殿方ですね。 ましてその方が、男らしく力強い人であれば……」

 コーネリアのショールが肩口に触れても、バージルは動かなかった。
 だが、夜目にも白い手が胸にそっと置かれたとたん、蘇生したように両腕を掴んで激しく引き寄せた。


 態度は常に泉のように静かなのに、彼の唇は熱かった。 自分から仕掛けておきながら、コーネリアは戸惑い、胴に抱きつくべきか、それとも首に腕を回すべきか、ぎこちなく悩んだ。
 やがて、どうでもよくなった。 自分の足で立っているのか、それとも宿り木のように大きな体に巻きついているのかさえ定かでなくなり、男の愛撫に任せてぼうっと眼を閉じた。









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