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表紙

誓いは牢獄で  27


「バージル卿とは、昔からのお友達ですか?」
 コーネリアはさりげなく訊いた。 二人の青年はたいていいつも一緒にいるので、個人的な話はなかなか聞けなかったのだ。
 優雅にターンして戻ってきてから、トーマスは答えた。
「大学が同じでね、気が合ったんです」
「あの方もハンプシャーご出身?」
「いえ、彼はイースト・サセックスです。 わたしなんかより遥かに物持ちで、一日中馬を走らせても領地を回りきれないほどなんですよ」
 コーネリアには衝撃だった。 がっかりして、声まで低くなった。
「お金持ち?」
「ええ、財産家です、相当な」
 どうしよう。 コーネリアは、もう一度壁に視線を飛ばした。 無意識に怯えた目つきになっているのに気付かなかった。
 バージルは、まだ目線の先にいた。 豪華な衣装に負けないぐらい美しいのに、誰とも踊らず、つまらなそうに部屋を見渡していた。


 ダンス曲が終わり、トーマスに手を取られてシャンパンを飲みにいくとき、コーネリアは再びバージルのほうを見た。
 すると、長官のアーノルド卿自らが挨拶に行き、着飾った美女を紹介していた。 次の曲をいかが? という誘いだったらしいが、バージルは礼儀正しく頭を下げただけで、長官が去ると、また壁際に引っ込んでしまった。
 何としても踊りたくないらしい。 チャンスを見つけてバージルと話したかったコーネリアは、どうしたらいいか頭を悩ませた。 トーマスと三人ならいくらでも機会はある。 しかし、バージルと二人だけとなると……。
 救いは、バージルの口の堅さだった。 明らかにトーマスは、昨夜の事件を全く知らなかった。
 だからといって、永遠に黙っていてくれるとはかぎらない。 証拠が井戸の中にある以上、危険はダモクレスの剣のように、いつもコーネリアの頭上にぶら下がっているのだった。


 シャンパンを飲み終わって再び壁のほうを見ると、バージルの姿がなくなっていた。 コーネリアは慌てて、視線を左右に走らせた。 そして、見つけた。
 バージルは人込みの中を縫って、テラスに出ようとしていた。









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