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表紙

誓いは牢獄で  24


 仕方なく、コーネリアはアンドリュースと共に、灰色鹿の間を隅から隅まで見回った。 そうすると、驚いたことに品物が何点か、本当に消えているのがわかった。
「お父様の煙草入れに、ペーパーナイフ。 それに、銀縁の眼鏡もない……!」
 バーンズが盗ったにちがいない。 取り返したいが、今では真っ暗な井戸の中だ。 コーネリアは唇を噛んだ。
 それにしても、あの男が忍び込んだとき、部屋は暗がりだったはずだ。 野良猫のように、夜でも目が見えたのだろうか。
「光る物だけ盗んでおりますな。 馴れた手口です」
「もうとっくに遠くまで逃げてしまったわ、きっと」
 はやくこの騒ぎにけりをつけたくて、コーネリアはそそくさとアンドリュースに命じた。
「すぐに錠前を直しておいて。 物騒な世の中になったわね。 都会からこんなに離れたのどかな村まで泥棒がはびこるなんて」
 アンドリュースは、すぐには引き下がらなかった。 まだ心配事がある様子で、声を低めた。
「実は、他にも消えております。 あそこに敷いてあった花模様の絨毯が無くなりました」
 驚いたふりをして、コーネリアは急いで振り返った。
「まあ! あれまで盗んでいったの?」
「おそらく。 盗品を絨毯に包んでいったのかもしれませんな」
「錠前を二つに増やしなさい」
 厳かに言いつけると、コーネリアは急いで部屋を後にした。


 翌日の朝九時過ぎ、ビートン家の四頭引き馬車が、前庭に横付けされた。 旅行着に着替えたコーネリアは、黒光りする馬車の屋根を二階の窓から見て、すぐ階下へ降りていった。
 頬の赤い陽気なビートン夫人マリアが、馬車の戸口から顔を出して差し招いた。
「一緒に乗りましょうよ。 久しぶりに会えたんだから、ずっとおしゃべりして行きたいわ」
「それがいい。 こちらへどうぞ」
 ビートン氏にも勧められて、コーネリアは、自分の馬車には荷物と小間使いだけ載せ、後からついてこさせることにした。 ビートン氏は、枯れ木のように痩せていて、一見恐そうだが、実はこの上なく人の良い紳士だった。

 馬車が走り出して乗り心地が落ち着くとすぐ、マリアが話し出した。
「お宅に泥棒が入ったんですって? いやねえ、こんな静かなところまで」
 ビートン氏も苦い顔で同調した。
「窓を直しているのを見て、どうしたのか訊いたんですよ。 大変でしたね」
「やはり殿方がいないと、家を守るのは不安でしょう? これから行く舞踏会には、名士の方がたくさんおいでになるわ。 よければ知り合いの名家の坊ちゃんたちを紹介してさしあげますよ?」
 コーネリアは、ぎこちない微笑を浮かべた。 そして、偽装結婚の作り話を繰り返した。 語れば語るほど、良心の痛みを重く感じながら。











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