表紙目次文頭前頁次頁
表紙

誓いは牢獄で  22


 考え、悩み、落ち込んでいるうちに、空は漆黒から薄灰色へと明けていった。
 五時半に起き上がると、体の節々が痛かった。 首を絞められて必死に抵抗した疲れが、今ごろ出てきたのだろう。 ぎこちなく起き上がって靴を探していると、部屋仕えの小間使いベティが現れた。
 身支度をして、髪を整えさせている間、コーネリアはベティと言葉を交わした。
「お客様方は?」
「少し前に起きてこられました。 七時には出発なさるそうで」
 もう六時を過ぎている。 コーネリアは慌ててドレスの上にショールをまとい、階下に降りて朝食の支度を命じた。

 廊下を急ぎ足で歩いていくと、開いた戸口からトーマスの陽気な声が響いてきた。
「いやいや、美人の誉れ高いクリープランド公の令嬢も、ここの奥方と比べたら輝きが薄れるよ。 おまえ、ヘボ画家のくせにあの顔をまともに見てないのか?」
「どちらも美人だ。 それでいいじゃないか」
 冷淡なぐらい落ち着いたバージルの返事が後に続いた。 自分の顔立ちを噂にしていると知って、コーネリアは二人のいる白雁の間へすぐ入っていけなくなった。
「あーあ、惜しかったなあ。 結婚をあと数日待ってくれれば、わたしがグレーダンの泉から我が愛馬に乗せて、かっさらっていったものを」
「なに騎士道物語みたいな寝言を言ってるんだ。 それより、長官へ渡す書状はちゃんと持ってるだろうな」
「もちろんだ。 肌身離さず。 ほら、このとおり」
 ゆっくりした靴音が響き、部屋からテラスへ踏み出した気配がした。
「手入れの行き届いた庭だ。 ゆっくり時間を取って、画布にも記憶にも止めておきたいものだ」
「やはり、ここに残りたいんだろう」
 トーマスがからかった。 バージルは、少しの間返事をせず、庭を眺めているようだった。
 それから、押さえた声で答えた。
「客は、長居すると嫌われるものだ。 もうそろそろ出かけようか」
「もうか? 腹がすいたよ。 台所へ行って、コックからパンでも分けてもらうか」
「わたしは、さっき出してもらったワインで充分だ」
 頃合だと思い、コーネリアはできるだけ華やかな微笑を浮かべて戸口をまたいだ。
「そんなことをおっしゃらずに。 今、朝食を用意させているところです。 間もなく呼びに来ますわ」










表紙 目次文頭前頁次頁
背景:Star Dust
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送