表紙目次文頭前頁次頁
表紙

誓いは牢獄で  21


 コーネリアは、明け方まで一睡もできなかった。
 甘かった。 情けないほど世間知らずで、悪党というものの本当の恐さがわからなかった。
『大きなことを始めたら、最後まで見届けること』
 亡くなった祖父の戒めが、実感となって胸に迫った。
 そうだ、危険な相手を夫にしたら、処刑までしっかりと確認すべきだったのだ。 恩赦なんて想像もしていなかったが、ごくたまに、無実の罪とわかって釈放される場合がある。 話には聞いていたのに、すっかり忘れていた。
 自分の頭を殴りたいほど後悔して、コーネリアはベッドで呟いた。
「情けない。 もっとしっかりしなくちゃ」
 もしバージル卿がいなかったら、いや、危険に気付いて助けに来てくれなかったら、今ごろ井戸の底にいるのは自分だったかもしれないのだ。
 コーネリアは自分の体に腕を回し、恐怖と共に不思議な甘さを味わった。 男性に守ってもらった経験は初めてだった。 それも、若くて凛々しい男性に……。
 そのとき、別の声が囁いた。
――自分の運命を人任せにしてはいけない――
 その言葉が、木霊〔こだま〕のように頭の中で渦巻いた。
 既に人任せになってるじゃないか。 バージル卿に命を救われたのは有難いが、その代償として、弱みを握られてしまった!

 そもそも、あの二人の青年貴族はどういう人達なのだろう。 長官に招待されるぐらいだから、身元は確かなようだが、特に上等な服装ではないし、荷物も少ない。 従者を連れていないし。
 コーネリアは息を詰めて、暗い寝台から起き上がった。
――あの人たちが、身分は高くてもお金に困っているのなら、私の財産で口封じできるかもしれない――
 貴族といってもピンからきりまである。 コーネリアが及びもつかない大富豪がいるかと思えば、借金だらけで今日の暮らしにさえ困っている貧乏貴族もいた。
 若い貴族たちは今日、長官の屋敷へ出発し、狩に参加する予定だ。 引き続いて明日の夜行なわれる舞踏会には、コーネリア自身も行く。
 ダイスン・アベイは遠いから、一晩泊まることになるだろう。 その間に、バージル卿と話をつけなければ。
 すべてを秘密のヴェールに包む代償がどんなに高価なものになっても、コーネリアは支払うつもりだった。









表紙 目次文頭前頁次頁
背景:Star Dust
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送