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表紙

誓いは牢獄で  20


 小絨毯を上から落とした後、いくらか肩で息をしながら、バージルが囁いた。
「剣を抜き取らなかったので、血はあまり出ていないと思います。 でも念のため、部屋を調べたほうがいいでしょう」
 そう、痕跡を残さないようにしなければ。 コーネリアは力を入れて頷き、急いで灰色鹿の間に引き返した。
 窓から入るとき、初めて気付いた。 錠前が巧みに壊されている。 バーンズは、ここから忍び込んだのだ。 コーネリアと対面する前に、屋敷の中を調べておこうとでも思ったのだろうか。 本人が死んだ今となっては、バーンズが何を企んでいたのか、もう誰にもわからなかった。

 燭台を明るくして、念入りに他の絨毯や床を点検した。 血の痕はない。 ただ、戸棚の縁に傷がついていた。 椅子の脚が当たったのだろう。
 床を這いずるようにして調べた後、コーネリアはホッと息をついて立ち上がった。
「どこにも血痕はないようですわ」
 後から入ってきたバージルは、その言葉を聞いて頷き、窓を静かに閉めた。
「何事もなかったように振舞ってください。 では、明日の朝に」
 急いで、コーネリアはバージルに駆け寄った。
「ありがとうございました! 命を救っていただいた上に、ここまで庇ってくださって」
 バージルは、考え深い眼差しで、ゆっくりとコーネリアの涼やかな顔立ちをたどった。
 やがて、唇が動いた。
「人は、持ちつ持たれつですよ。 どうか気にしないでください」
 コーネリアの手を取って軽く握った後、バージルはそっと廊下へ通じる扉を開いた。 左右を見て、誰もいないのを確認してから、彼は素早く二階へ上っていった。


 指で数えて扉の配置を確かめ、自分に割り当てられた部屋へ入ろうとしていると、隣りのドアが開いて、トーマスが首を突き出した。
「おい、ずいぶん長く部屋を留守にしていたな」
「それほどでもないよ」
「いや、長かった。 さては美しい女主人と気心が通じ合ったのか?」
 ドアノブに手をかけたままのバージルの頬に、かすかな苦笑が浮かんだ。
「どうかな。 世の中そう甘くはないよ」









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