表紙目次文頭前頁次頁
表紙

誓いは牢獄で  19


 コーネリアの手が、強く椅子の肘掛を掴んだ。
 そうしてもらえれば、何よりありがたい。 そうするしかないのだ!
「どうやって?」
 立ったままのバージルを見上げるコーネリアの顔は、いたずらをして兄に頼る幼児のように心細げだった。
「見つからない場所に運ぶのです。 どこかありませんか?」
 コーネリアは、必死で屋敷回りの地形を思い出そうとした。 裏庭にある楡の木陰は? いや、下草が生い茂っているから、掘ると目立ってしまう。 できるだけ召使達に気付かれたくなかった。 ことは殺人なのだ。 知る人間は、一人でも少ないほうがいい。
 庭の奥まで馬で運べればいいのだが、あいにく馬屋には馬番が二人も寝泊りしていた。
 どうしよう…… 悩んだ末に、パッとひらめいた。 コーネリアは立ち上がって、思わずバージルのガウンの袖を掴んだ。
「裏に古井戸があります! もう使っていないけれど、まだ井戸水は溜まっているはず」
「蓋は?」
「ええ、被せてあります」
「よし、ではそこへ」


 ふたりは、すぐ行動に移った。 まず窓を大きく開くと、血痕がついた戸棚前の小絨毯を投げ出し、死人の肩と脚を持って、その上へ降ろした。
 それから、バージルが庭に出て、男の体を肩に担いだ。 小絨毯を拾い、燭台の蝋燭を一本だけ灯して、コーネリアが裏の井戸まで先導した。

 重い蓋をずらすと、遥か下方で青白い水面がちらちらと動いた。 コーネリアは反射的に十字を切った。
 バージルが井戸の縁に置いた死人は、カッと目を見開いたままだ。 半月が瞳に映りこんで、自分を殺した者たちを睨みつけているように見えた。
 どうにも我慢できない。 コーネリアはおそるおそる手を伸ばして、瞼を引き下ろした。 バージルは、きっと唇を結んだまま、足首を持ち上げて、遺骸を暗い穴の中に落とした。
 少し間を置いて、ボチャッという音が、湿った空間を這い上がってきた。









表紙 目次文頭前頁次頁
背景:Star Dust
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送