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表紙

誓いは牢獄で  18


 赤く濁った目の曇りが次第に取れて、バーンズの胸に深々と食い込んだ短剣が、はっきりと見えるようになった。
 おそらくバージルは、男の肩を掴んで向きを変え、有無を言わさず心臓を一突きしたのだろう。 鮮やかな手口だった。 腕利きの暗殺者ではないかと思えるほどの。
 バージルは無言だった。 コーネリアが何か言わなければ、いつまでも沈黙が続く雰囲気だったので、何度も咳払いしてから、やっと枯れた声を出した。
「あり……がとうございます……」
 庭に面した窓から夜風が吹き込み、燭台の火をゆらめかせた。 バージルは、その窓から入ってきたらしかった。
 やがて、冷静な声が返ってきた。
「この男は、あなたの夫と名乗っていましたね?」
 コーネリアは顔を背け、片手で覆った。
「……そうです。 信じられないでしょうけど」
 バージルは、汚らわしそうに足元の死骸を見下ろした。
「何か事情がありそうですが」
「はい」
 そう答えたところで足元が揺らぎ、坐りこみそうになった。 そんなコーネリアを、バージルが支えて傍の椅子に座らせた。
「喉をうるおすものがあるといいのだが……ああ、あそこだ」
 棚からブランデーの瓶を下ろすと、バージルはグラスに注いで、コーネリアに渡した。
 二口飲んで、人心地がついた。 コーネリアは、泉のような銀青色の大きな瞳をバージルに向け、ぼつぼつと語り出した。
「祖父の遺言で、四月二十日までに婚礼しなければならなかったのです。 さもないと、親族の男性を夫にするしかなくて。 でもその男性は、この領地を売り払う計画を、勝手に立てていました」
「それで?」
 バージルは静かに、しかし容赦なく促した。
 続けるのが難しくて、コーネリアはまた下を向いてしまった。
「悩んだ末に、思いついたのは、死刑囚と結婚すれば後のごたごたを避けられるだろうという考えでした」
「それで、こんな下等な男と関わりを」
「はい」
「でも、計画が狂った?」
「ええ、ジョージ国王が恩赦をしたそうです」
「なるほど」
 顎に指を当てて、バージルは少しの間、床の死人を見つめていた。
 それから、決然と言った。
「仕方ない。 こいつを闇に葬りましょう」










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