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表紙

誓いは牢獄で  16


 強盗バーンズは、顎を反らしてクックッと含み笑いを漏らした。
「気の毒な話だ。 なあ、お姫様?
 新しい国王が来たことは、あんただって知ってるだろう? そう、我らがジョージ陛下だよ」
 そこでバーンズは身をかがめ、油くさい髪がコーネリアの額にかかるほど顔を近づけた。
「干草の山みてえなカツラをかぶったクソじじいだ。 ドイツ野郎で、こっちじゃ知られてない。 それで、人気取りに罪人の恩赦をしたのさ」
 できるだけ汚い男から身を避けながら、コーネリアは唇を噛んだ。 こそ泥ならともかく、人殺しを牢から放って、国民に感謝されるはずがない。 債務者の借金を棒引きにしたほうが、はるかに人気が出るだろうに。
 コーネリアの肘をしっかりと捕えたまま、男はいやらしく片目をつぶってみせた。
「嘘だと思うんなら、ニューゲイトに問い合わせてみろ。 死刑囚バーンズは釈放された、まちがいなく自由の身だと言ってくるさ」

 バーンズの声音には、真実味が感じられた。 嘘つきの悪党かもしれないが、今言っていることは、たぶん本当なのだ。
 とすると、コーネリアには、生きている夫ができてしまったことになる。 本名で結婚したために、まんまと探り当てて、ここまで追ってきたのだ。
 落ち着け、と、コーネリアは自分に言い聞かせた。 そして、おびえを隠して相手の目をまっすぐ見上げた。
「何が望みなの?」
 バーンズは、大げさに天井を見上げ、コーネリアを掴んでいないほうの手を横に開いた。
「何が望みって、決まってるじゃねえか。 俺はあんたの亭主。 神の前で誓った夫婦だ。 俺さまにはな、ここに住む権利があるんだ。
 だが、驚いたぜ。 こんなでかい荘園のお姫様だったなんてな。 これで俺も、一生遊んで暮らせるってわけだ」
 しびれるような憎しみと心の痛みの只中で、コーネリアは悟った。 バーンズは図々しい。 その上、限りなく欲張りだ。 この男をのさばらせたら、ランズフォードの領地はめちゃくちゃにされてしまうだろう。
 弁護士オーガストの助言に従って、関係者ともどもさっさと始末してもらえばよかった。 しかし、後悔先に立たずだ。 次の手を素早く考えめぐらしながら、コーネリアはまず、穏やかに言った。
「騒がないから、手を離して。 痛いわ」









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