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表紙

誓いは牢獄で  15


 召使のはずはなかった。 みんな朝が早いのだから、とっくに寝入っているはずだ。
 コーネリアは眉をしかめた。 客のどちらかだろうか。 これまでは礼儀正しかったが、深夜にごそごそ動きまわるとは。 やはり貴族の我がままが出たのか、と失望を味わいながら、コーネリアはガウンの前を掻き合わせ、音の聞こえる灰色鹿の間の扉を開いた。

 とたんに、中の音はぴたりと止んだ。
 コーネリアは、燭台を掲げて、部屋のあちこちを照らした。
「だれ? こんな夜遅くに、何をなさっているの?」
 そのとたん、熱風のようなものが通り過ぎた。 あっと思った瞬間、凄い力で燭台をもぎ取られていた。
 大きな影がコーネリアの前に立ちはだかり、ゆっくりと燭台を二人の間に差しつけた。 それで初めて、相手の姿がコーネリアの目にはっきりと見えるようになった。
 大男だった。 モール付きの色褪せた上着を身にまとい、下から皺だらけの半ズボンを覗かせていた。
 ズボンの皺…… コーネリアの体に、得体の知れない戦慄が走った。 いかめしい門、臭気、そして単調な牧師の声が、稲妻のように脳裏を一閃した。


 黒く汚れてはいるが、腫れはなくなり、精悍な容貌によみがえった顔が、にやりと笑った。
「こいつはついてる。 屋敷に着いてすぐ、あんたにめぐり逢えるとはな」
 二人は二秒ほど、動かずに睨み合った。
 それからコーネリアが素早く身を引こうとした。 だが、一瞬遅かった。 男は蛇のように腕を伸ばして、コーネリアの肘を掴み、部屋に引っ張りこんで扉を閉めた。

 低いかすれ声が続けた。
「大声出して騒いでいいのか? え?
 覚えているだろうな。 俺はあんたの夫だぞ。 追いはぎのジョン・ジェームズ・バーンズだ。 そのことを、村中に知られてもいいのか?」
「なぜ……どうして生きているの……?」
 自分の声には聞こえなかった。 彼方で響く野犬の悲鳴のようだ。 コーネリアは、しっかり足を踏みしめようとしたが、床が砂浜のように沈んでいき、体は右へ左へと不安定に揺れた。









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