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表紙

誓いは牢獄で  13


「そうですか。 それはお寂しいでしょう」
 トーマスが優しい眼差しをコーネリアに向けた。
 そこへ、若い召使のハリーが入ってきて、伏し目がちに告げた。
「お部屋のお支度ができました。 お荷物を運ばせていただきます」
「あ、わたしのがこれだ。 そしてこっちがバージル卿の」
「かしこまりました」
 荷物を持って出ていくハリーとジムに、二人の貴族がついていった。
「失礼します」
「お昼の支度ができたら使用人に行かせますので、それまでどうぞごゆっくり」
「では、お言葉に甘えて」
 元気に廊下へ出ていく若者たちを見送った後、コーネリアはうきうきと着替えに行った。


 たっぷりとした昼食が済んだ頃、気まぐれな雲が切れて青空が顔を覗かせた。 コーネリアは貴族たちを連れて、裏庭の庭園を散策しに出た。
 まだ早春なので、花はほとんどない。 だが、きれいに刈り込んだ生垣と整った庭木を、青年達は如才なく褒めた。
「ヨーロッパ風のお庭ですね。 ヴェローナでこれと似た作りの庭園を見ましたよ」
「イタリアにいらしたことがあるんですか?」
 コーネリアのトーマスを見る眼が、一段と憧れの色を増した。 コーネリアは、ほとんど領地を離れたことがない。 実をいうと、ロンドンに行ったのさえ、先日が生まれて初めてだった。
「私はまだ、この島国から出たことがありませんわ。 殿方は身軽に旅ができて、うらやましい」
「貿易商のご主人に頼んでみては? わたしたちよりずっと世界をご存じでしょうから、きっと唐天竺まで連れていってくれますよ」
 バージルが淡々と言った。 ちくはぐなことを言ったのに気付いたコーネリアは、急いで付け加えた。
「いえ、妻というものは家を守るべきだというのが夫の考えなのです」
「もっともですが、少しは広い世間も見せてあげなくてはね。 わたしならそうしますが」
 そう言って、トーマスは白い歯を見せた。 思いやりがあっていい人だな、と、コーネリアは胸が温かくなった。









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