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表紙

誓いは牢獄で  12


 やがて空が曇り、パラパラと雨が降ってきた。 一同は馬を急がせて、疾風のように門から乗り入れ、玄関までの長い道のりを競って駈けていった。
 玄関前に使用人たちが走り出てきて、馬の口を押さえ、女主人を助け下ろした。
 乗馬鞭を従僕に渡すと、コーネリアはアンドリュースに告げた。
「トーマス卿とバージル卿をお招きしたの。 バークリー長官の狩に招待された方たちで、一晩お泊りになるから、準備をしてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
 マントを脱いで談笑している二人をチラッと眺めて、アンドリューズは一礼した。
「どちらのお部屋にいたしますか?」
「そうね、孔雀の間とセキレイの間がいいわ」
「ただちに準備させます」


 部屋の用意ができるまで、コーネリアは二人を白雁の間に通し、赤々とゆらめく暖炉の前でくつろいでもらった。 その部屋は、天井に届くほど大きな窓から前庭が一望できて、一階ではコーネリアが最も愛用する場所だった。
 出された上等なエールを飲み干して、トーマスは深く息をついた。
「ああ、生き返った感じだ。 ビールはおいしいし、景色はいいし、お屋敷は落ち着いていて立派だし、本当に気持ちがいい」
 バージルのほうは、むらなく塗られた漆喰の壁に並んだ肖像画を順々に眺めていた。
「歴史のあるお宅なのですね」
「二五○年近く続いています」
 どうしても、声に誇りが混じった。
「できればこれからも、この平和な静けさを引き継いで守っていきたいと願っています」
 つられて、トーマスも壁を見上げた。
「さっき、奥様と呼ばれてらっしゃいましたが、御主人の肖像画はどれですか?」

 コーネリアの右手が、強く握りしめられた。 何とか言いつくろわなくてはいけない。 声が上ずらないように気をつけて、コーネリアは答えた。
「また描いてもらう時間がありませんの。 夫は貿易の仕事をしておりまして、旅が多いので」
 それから、さりげなく言い添えた。
「今も船に乗っています」









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