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表紙

誓いは牢獄で  11


 もう一人の青年も、ゆっくりと切り株から立ち上がった。 そして、コーネリアと視線が合うと、頭を下げた。
 彼の手にあるスケッチを見て、コーネリアの眼が輝いた。
「貴方も水仙がお好きですか、アーデン様?」
 トーマスが控えめに咳払いした。
「ええと、彼も貴族です。 ノーランド侯爵で」
「そうでしたの。 では、バージル卿?」
「ええ、好きです。 春には欠かせない花ですね」
 バージルは柔らかく答えた。
 コーネリアは一歩後ろに下がって、群れ咲いている金色の花に見とれた。
「今年は去年より花数が多いようですわ」
「水仙はチューリップと同じで球根を作りますから、場所がよければ年々増えます」
 トーマスが、ここぞとばかり薀蓄〔うんちく〕を傾けた。


 それから二十分程、人々は泉のほとりで景色を愛でながら散策した。
 若くて器量よしの青年貴族たちとの語らいに、コーネリアはすっかり華やいだ気分になっていた。 招待状で身元は確かだし、二人とも上品で穏やかだ。 ちょっと家へ呼びたい、という気持ちになっても、不思議ではなかった。
「久しぶりに楽しいひとときでした。 素敵な話し相手の方々と、ゆっくり昼食など一緒にしていただきたいものですわ。
長官のお屋敷まで、ここからだと半日はかかります。 今夜は当方で一泊なさって、明日の朝お出かけになっては?」
 コーネリアの申し出に、待ってました、とトーマスが飛びついた。
「ありがたい! 目立たぬように来たもので、粗末な宿の固いベッドばかりで、へきえきしていたところです。 泊めていただければ、やっとぐっすり寝めます! な、バージル?」
 水を向けられたバージルは、仕方ないというように苦笑を浮かべて、画板を入れた袋を手に取った。
「もしご迷惑でなければ、喜んで」
「田舎で、大したおもてなしもできませんが、どうぞいらしてください」
 いそいそと、コーネリアは白樺につないだ愛馬に近寄った。 青年達も、泉の向こう岸に待たせておいた馬を引いてきて乗り、四人は笑いさざめきながら、林の小道に入っていった。









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