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表紙

誓いは牢獄で  9


 次の七日間、コーネリアは屋敷に篭もって、静かに過ごした。 仮にも夫になった人を弔う喪の期間としたのだ。
 それが済んで、ようやく心の曇りが晴れた。 時は四月の末。 そろそろ春の気配が色濃くただよって、荘園の庭では、黒っぽい常緑樹の間に浅緑の若葉が鮮やかに混じり始めていた。
「泉の水仙が咲き出したようですよ」
 朝の着替えを手伝う小間使いの声も、弾んでいた。 久しぶりに色のついたドレスをまとって、コーネリアはうきうきした気分に任せてはしゃいだ。
「そうなの? さっそく見に行かなくては。 レインバードに鞍をつけさせて」


 レインバードとは、コーネリアが大事にしている鹿毛の馬だった。 丈夫で頭がよく、乗り手の指示によく従う。 だから馬屋でもかわいがられていた。
 活発な侍女メアリ一人を連れて、コーネリアは馬を駆った。 グレーダンの泉は、門を出て小さな林を抜けた向こうにある。 まだ林の葉はまばらで、澄んだ朝の光が遠慮なく射し込んでいた。
 蹄の下では、冬に落ちた枯れ枝が賑やかに音を立てた。 パキパキと折れるその音が、林の外れにいた男の注意を引いた。 茶色の髪を無造作に縛った若い男は、杖代わりに地面について寄りかかっていた猟銃を、手に持ち直した。
「おい、誰か馬で来るぞ」
 呼びかけられたのは、切り株に坐っているもう一人の男だった。 金褐色のまっすぐな毛を、もう一人の男よりは丁寧に止めていて、きちんとした印象を見る人に与える。 彼は画板を膝に置いて、泉の岸で揺れる黄水仙を丹念にスケッチしていた。
 輪郭をなぞる手を休めずに、男は訊き返した。
「追いはぎか? それとも急ぎの使者か? がむしゃらに駈けているような蹄鉄の音だな」
「こっちへ近づいて来る。 ほら、剣を受け取れ」
 空中に弧を描いて、銀色の剣が飛び、画板のすぐ横の地面にささった。 男は顔をあげて文句を言った。
「すれすれだぞ。 俺を刺す気か」
「ばかなこと言うな。 危ないと思ったら、よけろよ」
 二人の若者が仲よく言い争っているところへ、小道を曲がって、コーネリア達の馬が現れた。








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