表紙目次文頭前頁次頁
表紙

誓いは牢獄で  7


 衣擦れの音を聞いて、サイドテーブルに寄りかかっていたホリスはすばやく身を起こし、レースの袖口を優雅に振って一礼した。
 コーネリアも膝を引いてお辞儀を返した。
「いらっしゃいませ。 お二人ともご機嫌いかが?」
「そこそこです。 ただし、去年の狩りで痛めた足がリューマチ気味になりましてな」
「それはいけませんわ。 どうぞお坐りください。 堅苦しい礼儀などお構いなく」
「では、お言葉に甘えて」
 父親のダグラス・カヴァデールは、ゆったりとゴブラン織りの椅子に座りこんだ。
 一方、ホリスは立ったまま、薄青い瞳でコーネリアを素早く観察した。
「明るい顔をしていますね。 よい事があったのでしょうか?」
 水を向けられて、コーネリアは胸を張って答えた。
「はい、実は私、夫を迎えました」


 少しの間、二人の男は何の反応も見せなかった。
 それだけ衝撃が強かったのだと知り、コーネリアはにんまりしそうな顔を全力で引き締めた。
 やがてホリスの右肩が持ち上がった。 目に危険な光がひらめいた。
「夫、と言われましたか?」
「はい。 貿易商ですの。 名前は、ジョン・ジェームズ・バーンズと申します」
「それで? その幸運な男性に紹介してくださるんでしょうね」
 淡青の眼が細まった。 言い逃れの嘘だと思っている様子だ。 コーネリアは小首をかしげ、できるだけ素直に聞こえるように言った。
「残念ですが。 夫はマデイラへ買い付けに出かけましたの。 気候のいいこの時期ですから、船がたくさん出帆しておりましたわ」
「港から?」
「はい、一昨日式を済ませて、見送りに行きました」
 コーネリアは用意した作り話をすらすらと口にした。 何しろランズフォード家の未来がかかっているのだ。 必死だった。
 ホリスは鋭い男だ。 彼女の反応に一抹の影を感じ取ったらしく、皮肉な表情になって、いっそう肩をそびやかした。
「なるほど。 先々代のファーディナンド翁の遺言ぎりぎりの期限で、一昨日その、なんとかいう貿易商と結婚なさったと」
「ジョン・ジェームズ・バーンズです」
 負けずに、コーネリアもすっくと背筋を伸ばした。 そして、背後に持った紙を、おもむろに前に掲げた。
「これが結婚証明書です。 昨日の朝、州長官のアーノルド卿にお見せして、承認をいただきました」







表紙 目次文頭前頁次頁
背景:Star Dust
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送