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表紙

誓いは牢獄で  6


 門の前には、召使たちが二列に並んで出迎えていた。 どの顔も、コーネリアが無事に『悪の巣窟』ロンドンから戻ってきたことで、ほっとした表情を浮かべていた。
 召使頭のアンドリュースが、馬車を降りるコーネリアに恭しく近づいて、盆に載せた手紙を渡した。
「今朝使いの者が届けてきました。 カヴァデールの殿様とホリス様が、明後日の午後おいでになるそうです。 詳しいことはその中にお書きだそうで」
「ありがとう」
 やっぱり忘れていなかった――少し明るくなっていた胸に、灰色の雲が垂れこめた。 だが、もともとわかっていたことだし、受けて立つしかない。 渡された手紙で無造作に顔をあおぎながら、コーネリアはすべるようにホールへ入り、階段を踏みしめて自室へ上がっていった





 手紙には午後二時頃と書いてあったが、翌々日の正午を少し回ったぐらいに、もうイルカの飾り付きの豪華な四輪馬車が、玄関前に乗り付けてきた。
 ホリスのせっかちな性格を知っていたため、コーネリアはなんとか準備を整えていた。 それにしても早すぎる。 気配りのない男達だ。 コーネリアはわざと半時間ほど、『灰色鹿の間』で待たせてやることにした。
 その間、彼女は隣りの『白雁の間』に入り、壁に耳をつけて男たちの会話をこっそり聞いた。
 最初は、せわしなく歩き回っている靴の音が響き、やがてホリスの苛立った声がした。
「今日が最終期限です。 彼女だってわかっているはずなのに、平気な顔で待たせて」
「女性に待たされて文句を言うようでは、伊達男とは言えないぞ、ホリス。 ゆったり構えて、余裕を見せろ」
「なにか嫌な気配があるんです、父上。 そもそも今日は、彼女の父親が暗殺された日だ。 そんな日を期限にするなんて、ファーディナンド翁も縁起が悪いことを」
「暗黒の日を忘れないようにするためだろう。 犯人は未だにわからないままだからな」
「わたしに頼めば、全力で探してあげますよ。 女の細腕で調べようなんてするから、犯人が捕まらないままなんです」
 ハッ、と馬鹿にした笑いが炸裂するのを聞いて、コーネリアはむっとなった。 それで、威厳を整えると、いったん戸口から出て、改めて隣りの部屋に姿を現した。







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