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 その年の夏は気候が不順で、前半は異様なほど暑く、途中からは豪雨が降ったり急に冷えたりと、農業には辛い日々が続いた。
 非常に丈夫で風邪ひとつ引かないのが自慢だったマールは、天気のせいか、ときどき立ちくらみを感じ、料理が前ほどおいしく食べられなくなった。 そのことを冗談めかして母に話したところ、エレは一緒に笑わずに、真面目な顔になって尋ねた。
「月のものは? 順調なの?」
 マールは少し考えた。 いろいろ気がかりなことが多く、日々が重くのしかかってくるせいか、すっかり忘れていたが、そう言えば……
「二ヵ月ぐらい訪れがないわ」
 エレはうなずいた。 そして、きっぱりと言った。
「お父様に話さないと」

 初め、フランソワは信じられない様子だった。 ごく普通の父親として、娘はいつまでも子供だと思っていたのだ。
 やっと納得がいって立ち上がると、彼は髭の端を噛みながら、部屋をぐるぐると回り出した。
「選択肢は三つだ。 相手の男を探し出して、決闘してでも式を挙げさせるか、田舎で生んで養子に出すか、または子供ごと引き受けてくれる男と一緒になるかだが」
「どれも難しいわ」
 窓辺に座って、エレは静かに答えた。
「相手とは深く愛し合っているけれど身分が釣りあわないの。 養子はあの子が承知しないでしょう。 他の男性との結婚は……」
 とても無理、と言おうとして、エレの眼がキラッと光った。 頭の片隅から、非常に大胆な考えが湧き出てきたのだ。
 すっと藤色のスツールから立ち上がると、エレはまだ歩き回っているフランソワに近づいて上着の裾を引っ張った。
「ねえ」
「なんだ。 妙案でもあるのか?」
「まだわからない。 彼が承知すればだけど、でもたぶん大丈夫」
「彼って誰だ?」
 気短にフランソワが聞き返した。 エレはにこっと笑って、一言答えた。
「クリストフ・トーメ」
 



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