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 二日後、コンデ屋敷の塀に花が置かれていた。 大喜びでその晩に庭へ出たマールは、恋人の口から思いがけない言葉を聞いた。
 マールの手を固く握って、セルジュは沈痛な表情で囁いた。
「シャンパーニュ先生が、大きな仕事を頼まれてフィレンツェへ行く。 わたしもお供することになった」
 セルジュの手の中で、マールの指が小さく震えた。
「イタリアへ? どのぐらい?」
「予定は半年だが、もう少し長くなりそうだ」
 半年…… マールはいっそ、家を飛び出してセルジュについて行こうかと思った。
「輝く夏が過ぎて秋になってしまうわ。 いえ、雪の積もる冬になって、吹雪で山道が閉ざされるかも」
「考えたんだ」
 セルジュの声が、更に哀調を帯びた。
「俺が傍にいないほうが、あなたは幸せになれるんじゃないかって……」
 言い終わる前に、マールはとっさに彼の口に手のひらを当てた。
「止めて! シルヴィーのことを気にしているなら余計なことよ。 彼女はもう」
「いや……。 表向きは確かにそうなんだが、あなたの知らないことを俺は聞いているんだ。 闇の世界の内幕を。 だからこそ……」
「知らないこと? 教えてちょうだい! 私はあなたの妻でしょう? 話して。 お願い!」
 しばらくの間、短い息遣いがマールの耳に聞こえていた。
 それから心を決めて、セルジュは愛しい人に話し始めた。 少し長い話を聞くうちに、マールの表情はどんどん変化した。 驚きから不快へ、それから決意に満ちた表情へと。
 セルジュが顔を離したとたん、マールは彼の首に腕を巻いて抱き寄せた。 そして、耳元に囁き返した。
「わかったわ。 あなたはフィレンツェに行って。 でも必ず連絡をちょうだいね。
 私は何があっても心を変えたりしないわ。 こう見えても、私は宮廷一の頑固者と『影の実力者』の子よ。 
 忘れないで、あなた。 『目には目を』よ」
「そうだ。 歯には歯を!」
 セルジュは腹の底から出る声で呟き、マールに激しくキスした。 



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