誰にでも、触れてはならないものがある。 それは、秘密だったり、隠し財産や、大切な家族だったりする。
セルジュの宝はただ一つ、マール・コンデだった。 顔立ち、性格、活気と知性、どれを取っても誂えたように好みにぴったりで、この世に実在するひととは思えないほど理想的だったのだ。
目の前で、慣れ親しんできた幼なじみが蒼白になり、狼のように面変わりするのを見て、さすがのシルヴィーも鳥肌が立ち、じりじりと後ずさった。
ごくりと唾を飲み下すと、セルジュは口をほとんど開けずに唸った。
「これから調べてくる。 おまえが一体何をやったのか。
今の言葉が本当だったら、いいか、覚悟しろよ。 おまえを同じ目に遭わせてやる。 魔女みたいに焼き殺してやるからな!」
「ジャック!」
顔を覆って、シルヴィーは子供時代の仇名を弱々しく叫び続けた。
「ジャック……そんなことしないで。 できっこない。 一緒に育った仲じゃないの……」
だが、あっという間に彼は姿を消し、シルヴィーは糸のもつれた操り人形のようにくたくたと、地面によろけこんだ。
広大で、無駄なほどたくさんの部屋があるコンデ邸では、三部屋焼け焦げたところで、代わりはいくらでもあった。
衣裳部屋が水浸しになってしまったので、やむを得ず母のガウンを借りたマールは、つんつるてんで脚が寒いとぼやいていた。
「今夜だけの辛抱よ。 明日になったら仕立て屋のべスナールをうちへ呼んで、新しい服を作らせましょう。 いっぱい買って大丈夫よ。 フランソワはああ見えても、あなたには目がないんだから」
「焼け太り状態ね」
小さく笑ってから、マールはさりげなく付け加えた。
「スキャンダルにはしたくないの。 シルヴィーが消えたことは内緒にしておいてくださいね」
「噂は防げないわよ」
エレはすぐ言い返した。
「じゃ、事故で蝋燭を倒して、消そうとしたけど燃え広がって、怖くなって逃げたということに」
「なぜあんな子を庇うの?」
不思議そうに、エレは尋ねた。
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