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「あなただって私を見ていたんでしょう? 私もあなたを見ていたの。 隣りの裏庭で喧嘩していたところとか、私の部屋でシルヴィーと話していたところとか」
 マールに袖を捕らえられた姿勢のまま、セルジュは動かずに立っていた。
「シルヴィーと? じゃ、あいつがあなたの宝石を盗もうとしたのを知ってたんですか?」
「ええ」
 マールはあっさりうなずいた。 これにはさすがのセルジュも、あいた口がふさがらない様子だった。
「なんで追い出さなかったんです? 泥棒を同じ家に置いておくなんて」
「あなたに言われて、あの子は思い直したわ。 あのときの言い方で、あなたを好きになったのよ。 公平だったし、シルヴィーを庇うのも男らしくて……」
 セルジュの体が、大きく揺れた。
「俺を……何ですって?」
「好きになったの」
 決まってるじゃない、というじれったい口調で、マールは答えた。

 セルジュはちょっと黙っていた。 それから、怒った声音になった。
「なんの冗談ですか」
「本気よ」
「へえ」
 セルジュは肩をそびやかした。 夜目にも目が研ぎ澄まされたように光るのがわかった。
「じゃ、俺と駆け落ちできますか? 今すぐ、ここから」
 まったくためらわずに、マールは言い切った。
「ええ!」

 また沈黙が落ちた。 セルジュの顔から次第に荒んだ表情が消え、疲れたような寂しい色が取って代わった。
 ゆっくりとマールの右手を取って両手で挟み、彼は噛みしめるように言った。
「本気なんですね。 俺のとんでもない高望みは叶ったわけだ。 でも俺には、あなたを幸せにする力がない」
「幸せだわ。 もうとっくに」
 胸の底から自然に湧き出した言葉だった。 セルジュの心が自分にあると知ったあの夜から、マールは酔ったように夢の国をただよっていた。



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