表紙
表紙目次前頁次頁文頭





−64−

 やがてフェデはぽつりと言った。
「あなたでしたか、マドモアゼル。 そうだ、考えてみれば、あなたも国王の親戚なんだ」
 マールはカッと頬が熱くなった。 正体を見抜かれた。 後ろに慎ましく控えているセルジュにも、おそらくわかってしまっただろう……
 もうどうにもならない。 マールはやむなく帽子を脱いで手に持った。 紐で一つにまとめた髪が、背中でたてがみのように揺れた。
 フェデは曇った眼をフランソワに向けた。
「首謀者はわたしです。 後の者はわたしの計画に乗り、従っただけです」
「なかなか男らしいな」
 フランソワは静かに受けた。
「だが確か、君は立派なカトリックの家系だったはず。 なぜこんな陰謀を企んだ?」
 輝きを失った顔に、わずかな炎が戻ってきた。
「国を愛するからです。 祖国には強くあってほしい。 それには軍隊だけでなく国力が必要です。
 蓄えがあってこそ戦争に勝てる。 だが今この国は、徴兵制で働き盛りの若者を田畑から取り上げ、食料の生産を大幅に減らしています。 その上、商業の中心だった新教徒を失って、品物の流れがすっかり悪くなってしまいました。 おそらく十年前の四分の三近くまで、経済は落ち込んでいると思われます」
 ルイ王は肩をそびやかして冷笑した。
「悪い面ばかり見ての批判だ。 戦いで領土が増えれば、そこに住む領民も増える。 新しい産業・産物が手に入る。 辛さに耐えれば明るい未来が待っているのだ」
「占領された他国の民が、もともと国内にいた新教徒より扱いやすいと申されるのか! 革命の火種を抱えこむだけだとお思いにならないのか!」
 フェデの声は火を吐くようだった。
「だからわたしは一計を案じた。 国王を暗殺しても、次に王になる者が正しい政治をするとは限らない。 だから、今の国王に、太陽王ルイ十四世その人に、法律を変えてもらうのだと!
 そう、偽物にです。 マックスはもともとパリの下町で、王様そっくりだと評判になっていた芸人です。 彼を見たときわたしは、本物とすり替えてもわからないんじゃないかと、ふと思いました。
 最初は空想していただけでした。 でも、地方に出かけた王のお気に入りになったジョゼ・クルスナールという若者が、たまたま私の知り合いの新教徒にそっくりだった。 そこで、国王だけでなく側近も入れ替えて偽王を守れば、計画が成功するかもしれないと思いついたのです。
 マックスはすぐ仲間に入りました。 そして他にも同志が集まった」
「なぜ入れ替わった後も、酒蔵で生かしておいた?」
 フランソワの問いに、フェデは不敵な笑いを浮かべた。
「わかりませんか? 法令にサインした後、ここで、この宮殿で死んでもらうためですよ」


表紙目次前頁次頁文頭
背景:CoolMoon
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送