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 間もなく、捕り方の優勢が目に見えて明らかになってきた。 奥から飛び出してきた一味の三人は既に二人が倒されて縄をかけられており、最後の一人だけが死に物狂いの抵抗を続けていた。 酒場の主人ジョルヌーイは両方の脚を負傷して立つことができず、ふてくされて地面にあぐらをかき、荒い息をついていた。
 フランソワは剣を引くと、まだ闘いを止めない男に呼びかけた。
「無駄な力は使うな。 多勢に無勢なのはわかっているはずだ」
 まだ二十代半ばと見えるその男は、昂然と顎を上げて言い返した。
「どうせ反逆罪で首を切られるんだ。 丸腰で死ぬより、ここで剣を持ったまま散りたい」
「もったいないな。 勇敢な男は好きだが」
 フランソワはふっと息をつくと、また剣を上げて勝負に入った。 一対一の戦いは、あっという間にけりがついた。

 命を失ったのは、その若者だけだった。 六人の捕虜を一箇所にまとめて縛りあげると、一同はいよいよ、樽の解体にかかった。
 巨大な樽は三個あった。 さっきジョルヌーイが誤魔化しのために栓を開いてみせた樽を、アンリが軽く叩いてみた。
「上四分の一は鈍い音がする。 酒が入ってるんだな。 だがこの辺から下は、ほら、カンカンという軽い響きだ」
「よくできた細工だ。 前もって準備していたに違いない」
 ずぶ濡れのシャツの裾をしぼっていたセルジュが、進み出て言った。
「寸劇に使うといって注文したらしいですよ。 あらかじめ五個頼んだが足りなくなったといって、追加注文していました」
「そのうちの三個か……」
 かがみこんで、真剣な顔で樽底を調べていたジャックが、声を上げた。
「おっ、動きました! 左へ回すと、ええと、こんな風に」
 かすかなきしみを残して、底は樽の中に倒れていった。 後にあいた穴から、だらっと長い足がこぼれ出た。
 それっとばかり、二人がかりで体を引き出した。 両手首を背後で縛られ、猿轡〔さるぐつわ〕をかまされている。 河原はますます暗さを増して、顔立ちははっきりと見極められなかった。
 マールが膝をついて、口にくいこんだ布切れを外してやった。 捕虜は呻き、弱々しく首を動かした。
「ああっと……ヒック」
 続いて両手を縛った縄をほどいている間にも、シャックリは続いた。 尋常でなく体が揺れているわけが、それでわかった。
 フランソワが髭をひねり、ぶすっとした口調で言った。
「ぐでんぐでんだ。 いったい何本酒を飲まされたんだ?」


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