薄闇は悪事をわかりにくくするが、同時に取り締まりが姿を隠すのも容易にしてくれる。 フランソワが体を低くして土手から覗いたとき、ちょうど運搬用の平舟がゆっくりとセーヌを遡ってくるところだった。
急いで頭を引っ込めると、フランソワは木の蔭に身を寄せているエレに耳打ちした。
「舟が来た。 あと十分ぐらいで着岸するだろう」
「半時間が勝負ね」
フランソワはうなずき、腰に手をやって剣を確かめた。 エレは木の後ろを離れ、川から見えにくいところまで道を少し戻って、懐から白いハンカチを出した。 後を追ってくる援軍の目印にするためだ。
間もなく馬たちの荒い息と低いいななきが聞こえた。 蹄の音が小さいのは、気を使って駆け足から並足に押えたためらしかった。
エレがハンカチを肩のあたりで振ると、相次いで七頭の騎馬が到着して取り囲んだ。 真っ先に下馬したアンリに、エレは素早く尋ねた。
「まさか全員連れてきてないでしょうね。 敵が勘付いて奥へ逃げ込んだら、酒場から逃げられてしまうわ」
「抜かりはありません」
アンリは胸を張った。
「ピエールとフェルナンが残って網を張っています」
「よかった。 デュパンに指示し忘れたって、フランソワが気に病んでたのよ」
マールが馬から下りてすっ飛んで来た。 これから起きる捕り物への期待で、じっとしていられないほどわくわくしている。
「いよいよね! あいつらクルスナールの本物をどうやって連れ出すかしら!」
「まあ落ち着け」
兄貴ぶって、アンリがたしなめた。
「いいか、シャルランとメリクルはデュパンと共に父上につけ。 残りはわたしと向こう側に隠れるんだ」
「はい」
男たちは一斉に散った。 残されたマールは、母を護衛する形で(そんな必要はまったくないのだが)、大木の幹に身を隠した。
静かな川岸に舟板のきしむ音が近づいてきて、呼び交わす声が響いた。
「こっちだ! ロープを投げろ!」
「桟橋をこするんじゃねえぞ。 右、右だ! てめえ耳がねえのか!」
ドスの効いた下町訛りが飛び交った。
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