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 デュパンの知らせを受けたマールは、五分で男の格好に着替え、帽子を脇にぎゅっと挟んだまま、ほとんど走りながら片足ずつブーツを履いた。
 烈風のようにどどっと階段を駆け下りてきたマールが、勢いあまって扉近くの水盤にぶつかりかけるのを、定時報告にやってきたアンリが危うく受け止めた。
「おいおい、可愛い顔に傷がつくぞ」
「ああ、丁度よかった!」
 頼もしい兄の出現にほっとして、マールは高い声を上げた。
「すぐ見張り場に引き返して部下を集めてほしいって」
「え? そろそろ夕飯だと思って……」
 楽しみにしていたのに、という言葉は容赦なく遮られた。
「それどころじゃないの! デュパンも来たわ。 さあ、急ぎましょう!」


 三名で館を出た騎馬隊は、町に入って間もなく六名になり、燕亭で様子を窺っていた新入り一人を加えて総勢七名で、夕暮れのパリを走り抜けた。
 新入りのジャン・ピエール・マルソーは張り切ってアンリの馬に並びかけ、息を切らせながら懸命に報告した。
「主人は居酒屋にいました。 でもそわそわしてて、女房が腹を壊しているから、店を早じまいして行ってやらないと、と常連に話していました」
「これから出るところなんだな。 明け方か夕闇にまぎれて、というのが一番安全だからな。 真っ暗な中をこそこそすると、かえって目立つし」
 闇の中なら、単独行動するセルジュの独壇場だ。 セルジュは今どこでどうしているだろう、とマールは考えずにはいられなかった。
「ねえ、お兄様?」
「なんだ?」
「あの地図を書いた若者、彼は?」
「さあな」
 アンリはちょっと考えた。
「アキテーヌ街の画家の家だろう。 迎えに行ったんじゃ間に合わないな」
 残念…… マールはちょっとがっかりした。



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