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 セルジュの表情が、心なしか柔らかい光を帯びた。
「心配してくださるんですか?」
「それはそうよ」
 熱心すぎる自分に気付いて、マールはたじろいだ。
「だって……大事な同志だから。 本当かどうかはっきりしないことに命を賭けちゃいけないわ」
 ジョゼ何とかよりあなたの方がはるかに値打ちがあるもの、と、マールは心の中で呟いていた。
 セルジュは淡く微笑み、身軽に立ち上がった。
「わたしは父上よりお嬢様の意見が正しいように思います。 燕亭の近所にはわたしの知り合いがたくさんいますから、できるだけ情報を集めましょう。 そして、またお知らせに上がりますよ」
 なんて頼もしい! マールは胸元で手を合わせ、自分も飛び立つように身を起こした。
「ありがとう! 午後は必ずうちにいるわ。 待ってるから」
 深くお辞儀をした後、セルジュは音もなく窓からすべり出て、あっという間に姿を消した。


 マールは自分の胸を抱いたまま、部屋の中を歩き回った。 とてもじっとしていられない。 体がふわふわと浮き上がって、勝手に動いた。
 また会える。 彼は父様じゃなく私を信じてくれた。 この私を!
 なんてすてきなんだろう! 
 マールの春は、今やっと始まったのだった。


 その頃、宮廷ではまた侍医が馬車で招かれ、顔を曇らせながら奥の間へ入っていった。 アドリアン・フェデとジョゼ・クルスナールが遠ざけられているというのに、国王がまた頭痛と寒気を訴えて、朝食を取らずに床についてしまったのだ。
 王が再び不調になったとの知らせは、半日と経たぬ間にパリのフランソワへ伝えられた。 大嫌いな書類の処理を(部下達にやらせて)片づけていたフランソワは、内心これ幸いと事務仕事を放り出して、デュパンと共に大急ぎで邸宅に戻ってきた。 もちろんエレと作戦を練り直すために。



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