それでも願ったり叶ったりの申し出だ。 マールはもう遠慮なしに窓から上半身を乗り出して、息だけのささやき声で応じた。
「手紙はいいの。 お父様の配下なら、ここへ来てちょっと話を聞いてくれます? 今とっても話し相手が欲しいので」
セルジュは驚いたようだったが、まず右を、それから左を見渡し、人がいないのを確かめてから、建物の壁に飛びついて、あっという間に登ってきた。
マールはドアに小走りで行って内鍵を下ろした。 小間使いのシルヴィーは『早業のジャック』としてのセルジュと親しいらしい。 ここでうっかり入ってこられては、すべてがぶち壊しになる。
ためらいもなく、セルジュを部屋へ引き入れると、マールは遠慮する彼をさっさとカウチに座らせて、自分も横に腰かけた。 遠いと声を出さなければならないから、一発で気付かれるのが怖かった。
恋にはまったく関係ない内容なのに、まるで逢引きしているようなささやき声で、マールはこそこそと話し出した。
「一味の何人かは酒蔵に入ったままなのを知っているわね?」
セルジュは無言でうなずいた。
「もしそれが誰かの見張りをするためだったら、と考えたの。 つまり、ある人物がこっそり酒蔵の地下室に連れ込まれ、監禁されていたらって」
「監禁場所としたらなかなかいいですね。 奥深いから、捕虜が少々わめいたって外には聞こえない」
セルジュが真剣に取ってくれたので、マールは大いに元気づけられた。
「私は、ジョゼ・クルスナールがその捕虜なんじゃないかと思ったんだけど、お父様は取り合ってくれないの。 すりかわった当人を生かしておいては危険すぎるからすぐ始末するはずだって」
セルジュは少し考えていたが、やがて顔を上げて決断力のある声で言った。
「わたしがその地下室を探ってみましょう」
「だめ!」
思わず声を立ててしまって、マールは慌てて口を押え、囁き声に戻った。
「絶対だめ! 殺されに行くようなものよ」
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