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 フランソワは妻と娘の口からアドリアンの情報を聞き、確かに瓜二つの似顔絵を検討して、渋い表情になった。
「アドリアン・フェデか……彼は穏やかで賢いと評判で、エドモン・シャイーの次に国王の信頼を得ている。 その彼までが加わる陰謀とは、わたしには想像つかない。 シャンパーニュ地方の由緒ある家柄だし……
 ともかく遠ざけて様子を見よう。 スペインの大使夫人が若手貴族たちを集めて即興劇に夢中だそうだ。 彼女は口八丁手八丁で国王も一目置いているところがある。 王を慰めるための芝居の稽古に借り出すと言えば、断られはしないだろう」
「そうね! じゃ私がドロレスに根回しをしておくわ」
「よろしく頼む」

 翌日、フランソワが宮廷に赴くと、中の雰囲気が和らいでいた。 なんでも久しぶりに国王の体調がよく、起き上がって、溜まった公務を少しずつ片づけているのだという。 廊下を行き交う小姓や侍従たちも一様に愁眉を開き、楽観的な空気がただよっていた。
 それを見て、フランソワもいくらか胸を撫でおろした。 毒殺を企むなら体調は次第に悪くなるはずだ。 しかしまだ、油断させておいて大量に毒を盛るという手段もあるので、安心はできなかった。
 アドリアンとジョゼ・クルスナールもまだ王宮内にいて、侍従と共に手水鉢を運んだり、庭を歩くときに使うステッキを選び出したりしていた。 どちらも顔が明るく、とても芝居をしているようには見えなかった。
 フランソワは自分の弱点をよく知っていた。 彼には芝居ができないのだ。 怪しいと感じたら鋭い目で見据えてしまうし、声も冷たくなる。 だからこの際は二人の若者に近づかず、もちろん国王に拝謁を願い出たりもせずに、周囲をそれとなく探ることにした。
 しかし、その結果はがっかりするものばかりだった。 側近の若者二人を悪く言うものはほとんどいないのだ。 どちらもよく気がつくし優しいし、それでいて毅然としたところもあって、特に女性陣には大人気だった。
 昔の小姓時代、同じように人気を博していた美少年を思い出して、フランソワは面白くなさそうに口を曲げて呟いた。
「あいつら、何だかジュリアン・ダートルミーを思い出させる。 気に食わない。 まったく」


 エレのドロレス夫人かつぎ出しはうまくいった。 新顔のジョゼはともかく、アドリアンには前から興味があった夫人は、さっそく宮廷にやってきて、五日でいいから竪琴を持った天使役と若い羊飼い役にぴったりの二人を貸してほしいと国王に頼み、王も上機嫌で承知した。 すべて角を立てずにうまくいった、かに見えた。



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