もう一人は見たことのない顔だった。 肉のたるみ方から判断して、おそらく中年だろう。 似顔絵の顔を見つめているうちに、マールの胸は鉛のように重くなった。
沈んだ声で、マールはセルジュに尋ねた。
「どっちがナイフを使った男だって?」
「こっちです」
セルジュが指したのは、マールが予感したとおり、アドリアンに似た方だった。
長い睫毛を上げて、マールはセルジュの細面をうかがった。
「もしこの男を発見したら、君はどうする?」
「殺します」
決然とした、ただ一言だった。 アドリアンのことはまだ教えないでいよう、とマールは決心した。 他人の空似という可能性もあるし。
紙の皺を指で伸ばしながら、マールは尋ねた。
「これを上官に届けたいんだが」
「いいですよ。 一度描いた顔は忘れないから、手元になくても」
「ありがとう」
セルジュの気が変わらないうちに、マールは素早く絵を折って胸に収めた。
「長く引き止めてすまなかった。 行きたまえ」
やっと許可が出たのに、セルジュはためらった。 二人の横をひっきりなしに人や馬車が通り過ぎていく。 排泄物の混じった汚泥をはねあげられないように、用心していなければならなかった。
何秒か無言でいた後、セルジュは心を決めた。
「送っていきましょう」
は? マールは何ともいえない気持ちになった。 頼りない若造と思われているらしいのは気に食わないが、一緒に歩けるのはとても嬉しい。 したがって、答えも煮え切らないものになった。
「ええと、一人でも行けるが」
「わかってますよ。 ただ、その絵を持っているのは危険ですから」
「まあ……そうだな」
語尾が弾んだ。 また手をつなぎたいな、などと思いながら、マールは足元も軽く、セルジュと並んで歩き出した。
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