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「そうか。 傷が化膿しないでよかった」
「ええ。 なんとか生き延びそうです」
 まだ鋭さの残った目でマールを眺め、セルジュは重ねて尋ねた。
「でもまだ興奮させたくないんで、わたしから訊いておきますよ。 あいつから何を訊き出したいんで?」
 マールは一瞬ためらった。 味方とはいえ、セルジュはもともと部外者だ。 細かいことまで話していいものだろうか。
 だが、友情に厚いセルジュが友達のクロを刺した犯人に寝返るとは、とても思えなかった。 それにマールは、自分でも不思議なほど彼を信頼していた。 だから、すぐに意を決し、声を一段と落として囁いた。
「犯人に南部の訛りがなかったか、知りたいんだ」
「南部訛り……」
 セルジュの背筋がすっと伸びた。
「そうだ! どうも妙な気持ちがしてたが、それだったんだ」
「やはりあったのか?」
 意気込むマールに、セルジュは早口でささやき返した。
「いや、ちょっと違うんです。 最近ここらに見慣れない男どもが田舎から出てきてるんですが、何人かで連れ立ってくる連中なのに、ばらばらの方言をしゃべるんですよ。 普通ブルターニュならブルターニュ者で固まって来るはずでしょう?」
 ばらばらなのか! それなら南部の反乱とは思えない。 フランス全土から、いや、もしかすると外国からも来ているのかもしれない。
 どういうことなんだ――マールは寒気を覚えた。 反逆者が国中に散らばっているとすると、取り締まるのは不可能に近くなる。 範囲が広すぎる!
 マールの心を悟ったように、セルジュが呟いた。
「いったい奴ら何者なんでしょうね? 共通点が見つかれば手が打てるんだが」
「君の友達、たしかクロだったね」
「そうです。 クロード・デュポンっていうのが奴の名前です」
 セルジュもマールをある程度信用したらしい。 怪我人の名を教えてくれた。
「彼は、殺そうとした男の人相を言ったかい?」
 今度はセルジュがためらう番だった。 ちょっと視線をそらして考えた後、セルジュはふところから折りたたんだ紙を取り出して、マールに広げてみせた。
「あいつの言った顔を二人ぶん、描いてみました。 似てるとクロは言ってましたが」
 急いで線画に目を凝らして、マールの顔から血の気が引いた。
 そのうちの一人は、マールを抱いて噴水まで連れていった青年、アドリアン・フェデにそっくりだったのだ。



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