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 だいぶ夜が更けてきた。 長居しすぎると疑われる。 ジャンが目で合図して、三人はそろそろ引き上げることにした。
 そう酔ってはいなかったが、陽気に鼻歌を口ずさみながら外に出て、十歩ほど路地をいい具合によろめきながら歩いたとき、横丁から声がした。
「お若い方々、この近くで怪我人を助けてくれたのは貴方達ですか?」
 その声を聞いたとたん、マールの心臓が不規則にはね上がった。 何てことだ、セルジュじゃないか……!
 事情をわかるはずのないピエールが、振り向いてあっさり答えた。
「そうだが? 君は?」
 壁の陰から黒っぽい上着をまとったセルジュがすっと出てきた。
「刺された男の友人です。 おかげさまで奴はなんとか命を取りとめそうで」
「それはよかった」
 ジャンは関心をなくした風で、さっさと歩き出したが、ピエールのほうは足を止めて、念のために尋ねた。
「彼は詳しく話したかね? 誰に、どんな状況で刺されたかを」
 セルジュは自分が痛いように顔を歪めた。
「奴は酒蔵の前で人を待っていたんです。 はっきり言うと、この俺をです。 そこへ表通りから二人の男が話しながら入ってきたそうです。
 奴は足が不自由なんで、大樽の横に座り込んでいたんです。 別に立ち聞きしようとしていたわけじゃない。 だのに、そいつらはすぐそばに来るまで奴に気付かずにしゃべっていて、見つけたとたんに慌てて剣を抜いて、ぐさりと」
 歯をぎりぎりと噛みしめて、セルジュは悔しがった。
「金でもやって口止めすりゃいいんだ。 裏町の人間は口が堅い。 それを情け容赦なく殺そうとするなんて」
「しゃべっていた内容は? 聞いたか?」
「覚えていたことは全部お話ししたそうです。 そのことなんですが」
 セルジュは一歩ピエールに近づいて、熱を篭めて頼んだ。
「貴方達もその人殺し野郎を追ってるみたいですね。 ここは一つ、俺にも手伝わせてもらえませんか?」

 ピエールの表情が険しくなった。 彼にとってセルジュは海のものとも山のものともわからない存在だ。 そんな男に秘密任務を知られるのはまことにまずい。
 連行しようか、それとも一思いに……と、ピエールが迷っているのが、マールには手に取るようにわかった。 だから思わず声が出てしまった。
「仲間に入れよう」
 ピエールも、先に行きかけていたジャンも、あいた口がふさがらない様子でマールを凝視した。
「ええ?」
「マー ……マルク様! 何と軽率なことを!」
 行きがかり上、もう後には引けない。 マールはできるだけ声を太くして、わざと乱暴に言った。
「この男は信用できる。 僕が保証する」



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