・・・貿易風・・・ 48
エイダの話は続いた。
「ジョージ様はいつまでもジェニファー様を愛しておいででした。 でも、心臓の悪い奥様は旦那様を避けるようになって……それで、男盛りのジョージ様はつい、アサートンヒルにいた女の人と深い仲になってしまわれたんです」
それでヒース、じゃない、ヒューゴーがこの世に誕生したわけなのか。 セーラは何ともいえない気持ちになった。
「ジェニファー様は、赤ん坊が生まれた事を知るとすぐ、引き取りたいと申し出られました。 そしてヒュー様をダグラス様とまったく分けへだてなくお育てになりました。 そりゃあ気を遣って、お下がりなんか着せず、いつも両方に新しい服を仕立てなさったぐらいに。
だから兄弟仲はよろしかったですよ。 ヒュー様がおとなしい方なんでよかったんでしょうね」
昔を思い返して、エイダの目がなごんだ。
「私はお二人とも好きでした。 まっすぐで、いい坊ちゃん達でした。
不思議ですねえ。 お嬢様がこの家に来られたとき、私ふっと感じたんですよ。 この方には確かにダグラス様の雰囲気がある。 お母さんの面影はほとんどないけどって」
セーラは思わず視線をそらした。 偶然にも、彼女はダグラス・ケンプに似ているらしかった。 顔立ちだけでなく、内面的にも。
長話をしてしまったことに気付いて、エイダは急いで腰を上げた。
「まあ、怪我をなさっているのにますますお疲れになるようなことをお話してしまいました。
そうそう、ピストルを振り回したあの悪い男は、お隣りのワージーさんの馬を盗んで逃げたそうですよ。 村の駐在さんがアサートンヒルに応援を頼んで追いかけていますから、すぐに捕まるでしょう」
思い出すと首の周りがしくしくと痛んだ。 そして腕も。 セーラは弱ったジェニファーが心配になって、小声で尋ねた。
「あの、お祖母さまは、この騒ぎを?」
「ご存じありません」
エイダはきっぱり答えた。
「私どもは奥様をずっとお守りしてきました。 ですから腕の怪我は、くじいたことになさってくださいね?」
ほっとして、セーラはうなずいた。
ドアに軽いノックが聞こえた。 エイダが出ると、それはヒュー・ケンプだった。
「会えるかな? ちょっとでいいんだが」
「大丈夫だと思います。 お嬢様?」
振り向いて、エイダはセーラの意向を確かめた。
「ヒュー様が少しお話したいとおっしゃってますが」
「どうぞ」
ベッドに身を起こして、セーラは慌しく答えた。
表紙
目次
文頭
前頁
次頁
背景:
kigen
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送