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・・・貿易風・・・ 24

 食事が済むと間もなく、執事のハンフリーが居間にいたセーラを呼びに来た。
「ジェニファー様がお呼びです」
 それから声を押えて付け加えた。
「興奮なさったため、昨夜軽い発作を起こされました。 できるだけ刺激なさらないようにお願いします」
「わかりました」
 『孫』が訪ねてきたことがそんなに嬉しかったのだとわかって、セーラは少し気持ちが楽になった。 実の祖母は二人とも早く死んで、顔を見たことがない。 セーラは船旅の間に何度もジェニファーについて想像をたくましくしていたので、会ってみると他人という気がしなくなっていた。

 ジェニファー夫人の寝室は、セーラのとはまったく異なっていた。 ベージュを主体とした中世風のたたずまいで、家具もチューダー朝のものを揃えていた。
 ベッドに半分埋まったジェニファーは、確かに顔色が昨日より悪かった。 しかし、セーラを見たとたんに頬に血が上り、暖かい表情になった。
「いらっしゃい。 さあ、こっち。 ここへ座って」
 言われた通り、セーラがベッドのすぐ横のスツールに腰かけると、夫人は彼女の眼から視線を離さずに、一語一語噛み締めるように言った。
「昨日は他人行儀で驚いたでしょう。 あなたをどう思ったらいいか知るために、間合いをはかっていたのよ。
 実を言うと、シドがずっと私に言い続けていたの。 期待してはいけませんよ、よその国で外国風に育てられた娘で、伯母様の気に入らない子かもしれないし、財産目当てで乗り込んでくるのかも」
 セーラがすっと身を引いたので、ジェニファーは急いで手を差し出した。
「でもね、私が見たところ、あなたはまっすぐ伸びた白樺の木だわ」
「白樺?」
 セーラには耳慣れない名前だった。 ジェニファーは静かにうなずいた。
「樹皮が白くて清潔な感じなの。 それに葉が小さくて光を通すから、木の周りが明るいのよ。 きれいで、ちょっと寂しげな木」
 寂しい……そう見えるかもしれなかった、確かに。 セーラは思わず下を向いてしまった。
 


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