表紙
明日を抱いて
 198 待った手紙




 エイプリルの大事件で人々が騒ぎに騒いだ後は、エネルギーが尽きたような空白が待っていた。
 どこもいやになるほど平和な中で、静かに秋は深まっていった。 ミシガン大学の寮は広く、ゆったりと二人部屋で、ジェンと同室になったのはコーラ・ハンター、通称コーリーという頬の赤い元気な娘だった。 コーリーは幼なじみと結婚して農場を継ぐつもりで、農業化学を専攻していた。
 なにしろ動物の大好きな子で、公式には生き物を飼ってはいけないとされている寮の部屋で、黒いウサギと右耳が半分千切れた猫をこっそり育てていた。 同じく動物好きなジェンが告げ口するはずもなく、二人は声を出さないウサギとほとんど鳴かない猫を、授業中は寝室に隠し、戻ってくると共通の居間でのびのびと遊ばせてやった。
 茶猫のパンプキンを撫でていると、ジェンはときどき、前に家へやって来た犬のゴールディを思い出す。 素直で頭のいい犬だったが、毛が抜ける、特に換毛期には部屋で毛が舞うほど大量に抜けるという弱点があった。
 コニーは一日二回の掃除を三回にした。 それでも抜け毛がフラシ天の椅子やソファーにつき、朝と晩ブラシで取った。 終いには居間に座るたびにブラシを手にするようになったので、ジェンはもう限界だと察して、ゴールディを前からほしがっていた雇い人のレニーにあげたのだった。
 コニーのきれい好きは病的だという人もいたが、そういう性格なのだから仕方がない。 誰にでも癖はあるものだ。 ゴールディが新しい家で幸せそうなので、ジェンは会いたくなるとレニーの家に行って一緒に遊ぶことで我慢した。 もちろん帰り道に小さなブラシで毛を払うのを忘れずに。


 十一月三日は、ジェンのかわいい弟たちの誕生日だった。 家に戻れないので、ジェンは小さな機関車のように家中をよちよち駆け回っているというアンディとウォーリーのために、コーリーからもらった丈夫なフェルトで型を作って、しっかりした室内靴を作って送った。
 手紙は今でも秋の黄葉のようにどっさり届いた。 最近では雪に近くなっているのではないかと思うほど数が増えた。 大学へ進学しなかったデビーには、隣村にネイサンという恋人ができ、ハンサム・エディはなんと元生徒会長のサリーと付き合い始めた。
 近くの友達はみんなジェンが寮に入っているのを知っていて、早く読んでほしいから大学のほうへ手紙をよこす。 だからジェンは、どさっと学生部から手紙の束を渡されるのに慣れていた。
 しかし、十一月の半ばに届いた手紙は、他のとは訳が違っていた。 書留で来たため、受け取りに行ってサインをしなければならず、しかも大きくて頑丈な封筒を二重にして入れてあって、ものものしかった。
 その時間、コーリーには授業があり、部屋に戻ると一人だけだった。 手紙には大きな男文字で正確な宛名が記してあったが、差出人の住所も氏名も書かれていない。 首をかしげながら、ジェンは鋏で分厚い封筒を開いた。
 中には、便箋の表裏とも使ってびっしりと書かれた手紙が、何枚も入っていた。 その字を一目見たとたん、ジェンは息が止まるかと思った。
「エイプリル!」
 





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