表紙
明日を抱いて
 193 慌しく帰郷




 翌朝の九時半過ぎ、ジェンはメイトランド夫妻に見送られて汽車に乗った。
「じゃ、イースター休暇には必ずまた来てね」
 クリスマス休みをマクレディ家で過ごすのなら、イースターはどうしてもボストンへ来てくれと、ジェンは夫妻に頼まれていた。 そして、喜んでまた来るつもりだった。
「はい、イーリー。 それにお父さん。 今から楽しみ」
 心からジェンがそう返事すると、不意にエリザベスが身を乗り出して義理の娘を抱きしめた。 そして耳元で囁いた。
「手紙をちょうだい。 寂しくなるわ」
 顔を上げるとエリザベスの肩越しに、フィッツロイ夫人のクレアが驚いて口を開けているのが見えた。 ジェンはその反応を気にせず、エリザベスの頬にキスしてしっかりと答えた。
「書きます。 素敵な夜でしたね」
「ええ、本当に」
 メイトランドがかわいくてしかたがない様子でジェンの髪を撫で、ぎゅっと抱きよせた。
「新しい学校の様子を教えておくれ」
「ええ、お父さん。 きっと書くことがたくさんあるわ」
「じゃ気をつけてお帰り。 友達の面倒もよく見てあげるんだよ」
「はい、エイプリルのお母さんがすぐよくなるといいんだけど」
 ディアドラ・ウィンタースはこれまでも危険な状態に陥ったことがあり、そのときは手厚い看護で持ち直した。 だから今度も何とか、とジェンは願わずにいられなかった。


 途中、フィラデルフィアで乗り込んできたエイプリルは、緊張していた。
「さっきグランドラピッズの病院に電話したの。 接続が悪くて聞き取りにくかったんだけど、今朝は少しよくなって、スープを口にしたんですって」
 それを聞いて、ジェンは胸をなでおろした。
「よかった。 きっと今度も持ち直すわ。 いい病院で付きっ切りで世話してもらっているんだもの」
 エイプリルは懸命にうなずいたが、まだ顔色がよくなかった。 昨夜あまり眠れなかったらしい。
「母の傍にしばらくいてあげたいわ。 小さなドラが心配だけど、お義母さんはかわいがってくれるから」
 それから爆発的に嘆いた。
「ああ、体が二つあったらなぁ!」
 クレア夫人がわざわざ近くに来て、エイプリルを抱き寄せ、頬ずりしてくれた。
「可愛いエイプリル、まだうちの子と同じ十代だっていうのに、なんでこんなに苦労が多いんでしょうね」
 フィッツロイ先生も沈痛な面持ちで首を振っていた。


 列車は翌朝早く、グランドラピッズのほうへ先に着いた。 そこでフィッツロイ先生がエイプリルを病院まで送っていき、クレア夫人はジェンと予定通りサンドクオーターに戻ることになった。
 二人がエイプリルと母親を心配しながらいろいろ話し合っているうちに、列車は故郷の駅に到着した。 するとまだ朝の八時一五分という時間にもかかわらず、駅にはミッチとマージ、それにマージの婚約者のハウイが今か今かと待ちかねていた。
 たちまちジェンはミッチの腕に飛び込み、クレアはマージに抱きついた。 ハウイはにこにこしながらクレアの荷物を汽車から降ろしたが、ふと気がついて客車内を覗き込んだ。
「あれ、フィッツロイ先生は?」
 クレアが深刻な表情になって説明した。
「エイプリルのお母さんが重態になったという知らせがあってね、先生はエイプリルを病院まで送っていったの」
 マージがはっとして、母を見つめた。
「エイプリルが戻ってきたの?」
「ええ、大急ぎで」
「かわいそうに。 後でお見舞いに行っていい?」
 久しぶりでエイプリルに会いたくてたまらないマージの頼みに、ハウイがナイト役を買って出た。
「朝食がすんだらすぐに、僕が送るよ」





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