表紙
明日を抱いて
 178 喜びの爆発




 ジョーディを乗せた客船を見送った後、ジェンとアルフは港近くの食べ物屋に寄って、昼食を済ませた。 ジェンは料理が温かかったということしか記憶になく、運ばれてくる前にジョーディのマフラーをほどいで読んだ走り書きを皿の横に並べ、何度も何度もうっとり見つめた。


『船の中で手紙を書きまくって、船が港に着くたびに出すよ!』


 その後にはまるで子供のように、×(キスマークの代わり)が七つも並んでいた。
 アルフは健康な食欲で料理を平らげながら、穏やかに言った。
「ジョーディが君に首ったけなのは、男連中なら誰でも知ってた。 でも君の気持ちはよくわからなかったな。 本心を隠すのがうますぎる」
「それはね、最初に森で逢ったとき、ジョーディの態度を誤解したからなの」
 ジェンは、川面に映ったジョーディの苦々しい表情のことを説明した。
「彼は私があんまり好きじゃないんだと思った。 もしかすると本当に私の第一印象は悪かったのかもしれない。 でも人って、だんだん気持ちが変わることがあるわよね」
「そうだね」
 アルフがきれいに食べ終わり、まだ物足りない顔をしているので、ジェンは胸一杯で手をつけられなかったデザートのキャロットケーキを譲った。 アルフは喜んで、すぐ食べてしまった。
「でも僕が思うに、君って誰より第一印象がいいタイプだよ。 手紙で事情を聞いてごらん。 誤解があったら、早めに正しておいたほうがいいよ」
「そうね、私もちょっと気を回しすぎるところがあるから」
 そう答えて、ジェンは輝くように微笑んだ。 何よりも欲しかったジョーディの心を勝ち得て、その瞬間のジェンは、エイプリルより美しく見えると、アルフは心の奥で密かに思った。


 ミシガンへの帰途、ジョーディの姿が見えないのを、初めのうち誰も口に出さなかった。 のんびりしているようで口の固いアルフは、知らんぷりを装っていたし、ジェンはまた気持ちの整理がつかなくて、うまく説明できるかどうかわからないので黙っていた。
 周りは、遠慮なしのキャスが尋ねるだろうと思って待っていたらしい。 だが肝心のキャスは何だか上の空で、ジョーディがいないのに気づいているかどうかさえわからない状態だった。
 それで半日ほど過ぎた後、思い切ってデビーが、なんとなく申し訳なさそうにジェンの横に座り、声をひそめて訊いた。
「ジェン、言いたくないのかもしれないけど、みんな宙ぶらりんで困っちゃってるのよ。 私たち仲間じゃない? せめてジョーディがどこへ行ったのか、いつ戻ってくるのかぐらい教えてよ」
 それから、もっと低い囁き声で付け加えた。
「だってあなたすごくきれいになっちゃったから。 彼と喧嘩したわけじゃないわよね? 見たことないほど幸せそうだもの」
 みんな気づいてる! そうわかったとき、ジェンはこれまでになく気楽になった。 ジョーディの旅立ちと、その先に待つ地に足がついた幸福を、みんなに知らせよう。
「ジョーディはイギリスに行ったわ」
 不意にジェンが口にしたため、仰天したデビーは座席から落ちそうになった。
「ええっ?」
「ロンドンで建築と造園の勉強をするの。 二年の予定で」
「二年間も?」
「そう」
 それから、ジェンはもう笑顔を隠しきれずに打ち明けた。
「自分の腕でしっかり生きていきたいんですって。 メイトランドの財産は当てにせずに」
「じゃ、あの、養子の話は?」
「断るつもりよ。 私も賛成。 彼が私たちの家を建てて、二人で家族を育てるの。 思っただけでわくわくするわ!」
「ああ、ジェン」
 感激家のデビーは、たちまち目をうるませてジェンに抱きついた。





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