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174 あと少しで
驚きから覚めると、ジョーディはすぐ先を考え始めた。 見送りに来てくれるのは嬉しいが、二人きりでニューヨークに発つわけにはいかない。 帰り道、ジェンが一人になってしまうからだ。
「一緒に来てくれと、アルフに頼むよ。 彼は物分りのいい人だから、きっと来てくれると思う」
「そうね」
これで汽車の中で話し合うことはできなくなった、とジェンは悟った。 だがむしろ、そのほうがいいかもしれない。 ジョーディは夢を追っている。 目的を見つけると、女より男のほうが一直線に追いかけ、周りが見えなくなりがちだと、ジェンはミッチから聞かされたことがあった。
夢があるなら、学校友達の愛はむしろ重荷かもしれない。 ジェンは彼の足かせになりたくなかった。 出航直前に打ち明けよう。 そして彼が、留学が終わるまで待っていてほしいと言ってくれるほうに賭けよう。
ジョーディは早足で図書室を出て、すぐにアルフをつれて戻ってきた。 アルフは考え深い眼でジェンを眺め、思いやりをこめて問いかけた。
「ついていくのはいいけど、他のみんなには何て言う?」
「そうね、もう式は終わったから一日自由行動するって言うわ。 みんなもまだ買い物とか町見物とか、いろいろしたいと思うし」
「そうだな、それがいいかもな」
それからアルフはジョーディをちらっと見て、手で合図した。
「ちょっと話せるか?」
ジョーディはうなずき、ジェンに小声で言い残した。
「明日の朝七時半に、ここで待ち合わせよう」
それからの半日は、もやがかかったようで、後から考えてもジェンにはよく思い出せなかった。 披露宴でご馳走を食べてしまったので、夜まですることがない。 部屋に戻ると女子たちが全員集まって、故郷では読めない『マッコールズ』(婦人雑誌)を取り巻いて、ファッションの品定めに夢中になっていた。
最新デザインは、エイプリルならすべて似合いそうだった。 スタイルのいいマージにもほとんど着られるだろう。 少女たちはジェンを普通に迎え、デパートで買うつもりのドレスの型紙をどれにしたらいいか、にぎやかに相談をもちかけた。
ジェンは自分のためより母のために、デザインをいくつか選んだ。 上の空だったし地味なものばかりで、キャスにどやされた。
「ちょっと〜。 一枚十五セントするのよ。 気合を入れて選ばないと。 うちが取ってる『グッドハウス・キーピング』の通販は、やぼいのばかりなんだもの。 お宅もそうでしょう? 最新流行のを手に入れるチャンスなのよ」
「こんなにウェストを締めたら食べ物が入らなくなっちゃうわ」
ジェンがぼんやり答えると、みんな笑い出した。
「ほんとにそうよね。 このデザイン画、極端だわ。 胴がおじいちゃんのステッキぐらいしかないわよ、これなんか」
選び終わったところで、一同はまたデパートに繰り出した。 にぎやかなのが好きで、なぜか女性ファッションに詳しいエディが、喜んでついてきた。 ハウイも、荷物持ちしてあげるよ、と自分から申し出たため、一人きりで残されそうになったダグもしぶしぶやってきた。
ジョーディだけが来ないのを、誰も口に出さなかった。 ジェンは皆からいたわられているのを感じてありがたかったが、反面みじめな気持ちになった。
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