表紙
明日を抱いて
 171 すべて計画




「お父さんだって?」
 エディが小声で呟いた。 それから、水に顔を突っ込んだあひるのように、勢いよく首を振った。
 ジェンは知らぬうちに、一番近くにいたマージに強く掴まっていた。 立っていられるのが不思議なほど動揺していたが、頭は勝手にめぐり、これまで起きた奇妙で矛盾した出来事をたどっていった。
 他の女の子には話しかけないジョーディが、ジェンとだけはなぜか打ち解けたこと。 中学でジェンにいわれのない非難を浴びせたレジナルド・パイク先生が、あっという間に首になったこと。 ジェンの誕生日にメイトランドが不意打ち訪問してくれたとき、ひそかに案内したのがジョーディだったという事実。
 ヒントはあちこちにあったのに、ジェンは気づかなかった。 想像もしなかった。
 思い返してみれば、ジョーディは一度、ほとんど白状寸前まで行っていた。 ジェンがてっちあげた『好きなタイプの男の子』に、彼がぴたりと当てはまるのをほのめかしていたのだ。
 お父さんが私に近づけるために、ジョーディをわざわざ養子にしようとしたのだったら…… そう気づいて、ジェンの体に震えが走った。
 それは怒りからではなかった。 娘かわいさで、そこまでしなければならなかった実父の気持ちが哀れだったと同時に、他人の家庭事情に巻き込まれてジェンの護衛をさせられていたジョーディに対する申し訳なさが入り混じった、複雑でわびしい感情からだった。
 もうここではっきりさせたほうがいい。
 ジェンは決心すると行動が早かった。 励ましで抱きとめてくれていたマージの腕を握り返すと、柱の陰から真っ先に姿を現した。
「お父さんって呼んでるの、ジョーディ?」
 ジョーディは雄々しくジェンの視線を受け止めた。 決して目をそらしたり、ごまかしてわからないふりをしようとしたりせず、背筋を伸ばして、しっかりと立ったまま答えた。
「君にもっと早く言うべきだった。 途中でいろんなことが起きて、チャンスをなくした」
「そう」
 ジェンは穏やかに応じた。 メイトランドはジョーディの横で下唇を噛みしめていたが、そこでたまらなくなって口を挟んだ。
「ジェン、これは君の考えているようなことじゃないんだ」
「私が何を考えているか、おわかり?」
 自分そっくりの藍色の眼で見返されて、メイトランドは言葉を失った。 怒ってはいなくても、失望の色がその眼には現れていた。
 ジェンはジョーディに近づき、静かに言った。
「できたら二人で話したいんだけど」
 ジョーディはすぐうなずき、ジェンと連れ立って廊下の一つに入っていった。








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