表紙
明日を抱いて
 167 子のない親




 ミシガン組は、人数が多いので心強かった。 だから村の公会堂ぐらい大きい食事室に案内されても、圧倒されずにすんだ。
 食卓は英国式に長いテーブルをどんどん継ぎ足して縦に並べてあり、真っ白なレースつきのテーブルクロスが眩しいほどだった。
「五○ヤード競走のトラックぐらい長さがあるのに、クロスは二枚だけよ。 こんな大きなクロス、洗濯するのはいいけどどこに干すのかしら」
 恐れ入ったリリーがジェンに耳打ちした。
 洗濯係が必死に絞り機を回し、何人も並んで一斉にアイロンをかける様子を想像して、ジェンはなんとなく胸が痛くなった。 着飾って食卓につこうとしている上流の人たち、特に男性陣は、そんな苦労なんか考えてみたこともないだろう。
 だが、これでも内輪の食事なのだった。 席順は特に決められておらず、ドレクセル夫人は長男で家長のクリスと主人側に並んでいた。 クリスには妹が二人いて、上のジェシカは結婚していて夫と共に食卓についていた。 もう一人は末っ子のエヴリンで、年齢が近いエイプリルとすっかり仲良くなったらしく、隣に座って、似た金髪の頭を寄せ合って何やら話していた。
 ミシガンの一行は自然と男女交互に席を取った。 ジェンの両横はジョーディとエディだった。
 秋のいい季節で、食卓は季節の素材でにぎわっていた。 フィリーはミシガンより三度ほど暖かく、九月の末だとまだぶどうがあって、小粒ながら甘くておいしかった。
 でもコニーのおいしい料理に慣れたジェンからすると、ここのディナーは豪華だが味はいまいちだった。 よくマクレディ家でご馳走になるジョーディも同じ気持ちらしく、途中でローストチキンを一切れ切って口に運びながら、小声で呟いた。
「どれを取ってもコニーさんと君の勝ちだな」
 ジェンが嬉しくなって含み笑いをしていると、横からエディが身を乗り出すようにして囁きかけた。
「二人の式のときは招待してくれよ。 有名なコニーさんの手料理を話の種に味わってみたいんだ」
「いいとも」
 ジョーディはおちつきはらって答えた。
「君の式にも招いてくれるんだろうな」
「もちろんだよ」
 エディはあきれたように言った。 彼は少し軽薄に見えるが、中身は真面目で、友人には誠意を尽くすタイプだった。


 翌日、一行はジョーディを頼りに、町見物へ繰り出した。 結婚式が終わったらすぐ故郷へ戻る予定なので、今のうちに土産を買っておこうというのだ。 賢いジョーディは友達を高級品の多いデパートには案内せず、地元民に人気の小売店が並ぶ一角に連れて行った。
 そこの裏通りに、銃砲店と馬具の店が軒を並べていた。 男子たちはそこに入り込み、弟妹や親への買い物を仲のいい女子に頼んで、しばらく出てこなかった。 女子組は小間物店を見て回り、おもちゃ屋で楽しみ、帽子屋ではお互いに被りあって比較検討したあげく、全員が一個ずつ買って意気揚々と現れた。
 どの店も良心的な値段で、みんなジョーディに感謝した。
「社会経験が豊富なのは何となく感じていたけれど、こういう買い物がうまいとは思わなかった。 だって金持ちの養子なんだろう? ぜいたくな店ばかり行ってると思うじゃないか」
 ダグがしきりに感心した。 するとジョーディは少しいらいらしたように足元の小石を軽く蹴り、ぼそっと答えた。
「義理の父は気前がよすぎるんだ。 ずっと子供が欲しかった人なんで、どんどんオレにつぎこもうとする。 だからかえって受け取れない。 小遣いの額は義理の母と相談して、オレのほうで決めたんだ。 金持ちのドラ息子にはなりたくない」
「うわ、もったいない」
 ハウイが遠慮がちに言った。
「僕ならくれるだけ貰っちゃうだろうな」
 ジョーディは顔を上げ、思いがけず優しい笑みを浮かべた。
「ウソつけ。 牛の世話で稼いだバイト代を、弟が壊した窓ガラスに使ったくせに。 おまえに自分勝手は向いてないよ」
「どうせ貧乏性だよ」
 ハウイは怒ったふりをしてジョーディにジャブを入れたが、目はなごんでいた。  





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