表紙
明日を抱いて
 166 正式な晩餐




 少女たちは若いし、長旅が初めてだった子たちは興奮がさめやらなくて、みんな口数が多くなっていた。
「お婿さんはさっぱりした感じの人ね」
 リリーはきれいな庭よりきれいな男性のほうに興味しんしんだった。
 キャスはいつものようにみんなが困るほどの率直さで、エイプリルに尋ねた。
「彼、なんであんな汚い格好してるの?」
 気を遣うデビーが思わず声を上げたが、エイプリルは気にせず、あっさりと答えた。
「家具のデザイン画を描いていたんでしょう。 彼はデッサンに木炭を使うから、すぐ真っ黒になっちゃうの」
「ズボンまで?」
 たまりかねてサリーがキャスの袖を引っ張った。
「やめなさいよ。 ドレクセルさんは仕事をしていたのに、私たちが着いたからってわざわざ駆けつけてくれたのよ。 親切な人じゃないの」
「確かにいい奴そうだよな」
 不意に男の声がした。 六人の少女がぎょっとして振り向くと、そこにはエディとジョーディ、それにハウイとダグの姿があった。
「僕たちを置き去りにしないでほしいな、お嬢さん方」
 エディがキザ満開で帽子を取り、わざとらしく胸に押し当てた。 結局、アルフを除いてみんな出てきてしまったわけだ。 故郷でも同じ馬車で学校に通う仲間たちで、一緒にいるのが当たり前になっていた。


 噴水、彫刻、円形花壇にかわいい東屋〔あずまや〕と、庭園の定番が揃っている庭を公園気分で散策した一行は、最後にはばらけて、カップル三組と女子二人になって戻ってきた。 ハウイとマージは楽しそうだったが、ジョーディとジェンの間には緊張感がただよっていた。
「ここに泊まっていていいの?」
 わざと足を遅くして、友達から少し遅れたジェンは、ジョーディを見上げて小声で訊いた。
「あなたの家もフィリーにあるんでしょう?」
 ジョーディが答えるまでに、少し間が空いた。
「あるよ。 後で電話しておく。 どっちみちエイプリルの結婚式で会えるから」
「ああ、義理のご両親も招待されているのね」
 ジェンは納得した。 子供同士の仲がいいなら、親たちも当然交流があるにちがいない。


 ドレクセル家の夕食、いや晩餐というべきか、ともかく、なかなか面白かった。 まず食事の合図に銅鑼〔どら〕が鳴ったので、ドレスに着替え終わって巻き毛を整えていたリリーは、驚いて化粧台の椅子から滑り落ちそうになった。
「なに、今のお腹まで響く音!」
「銅鑼よ。 大きな平べったい鐘。 たしかインドのものだと思ったけど」
 早くから服装を整えて、女子たちを集めて回っていたエイプリルが説明した。 大きな家で建て増しもしているので、案内しないと食堂にたどり着けない恐れがあるからだ。
 少女たちが廊下に出ていくと、男子たちが角でかたまって談笑していた。 そして女の子たちを守るように横について、一緒に広い階段を下りた。





表紙 目次 文頭 前頁 次頁
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送