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164 思わぬ友人
ジョーディは静かにエディから離れ、前のほうに出てきてドレクセル夫人に頭を下げた。 この屋敷に入ったときから、内心覚悟を決めていたようだった。
「お久しぶりです、ドレクセルさん」
そして、きょとんとしているクリス・ドレクセルと握手を交わした。
「結婚おめでとう」
「おい、君か? いったいいつ入ってきたんだ?」
クリスは力強く握手を返しながらも、まだよくわかっていないようで、首をかしげていた。
まっすぐ彼を見つめたまま、ジョーディは力の入った声で答えた。
「この連中と一緒にさ。 僕の婚約者が君の花嫁の親友なんだ」
そして、ジェンの腰に手を回して抱き寄せた。
クリスとドレクセル夫人の視線が、ジェンに釘付けになった。 夫人のほうは社交界の重鎮らしく、すばやく無表情を保ったが、改めてジェンの顔立ちをじっくりと見つめたクリスの目は、どんどん大きく広がっていった。
「え? あの……えー〜?」
「クリス」
夫人が低く注意して、ようやくクリスは我に返り、ぎこちなくジェンに笑いかけた。
「おきれいですね、ほんとに」
それから、いきなりジョーディに食ってかかった。
「なんだよ! なんで婚約したって知らせてくれないんだ! 友達だろう?」
「今教えたじゃないか」
ジョーディは平然と答え、ジェンに優しく微笑みかけた。
「クリスは、僕が養子になってこっちへ来たとき、真っ先に仲間に入れてくれたんだ。 心の広い、いい男だよ」
そうか、そういう人だからエイプリルも結婚する気になったのね── ジェンはまだ戸惑った表情のクリスに笑顔を向けながら、心の中で確信した。 この人は私の顔を見て、お父様とあんまり似ているんでびっくりしたんだわ、と。
そっとドレクセル夫人に視線を移すと、夫人も目立たぬようにジェンを観察していた。 夫人の年頃なら、きっと知っているにちがいない。 東海岸の上流社会で一番の花婿候補といわれたビル・メイトランドが庶民の恋人を選んだ上、結婚寸前で逃げ出されたという大スキャンダルを。
空いているジェンの手に、暖かいほっそりした手がすべりこんだ。 何か異変が起きていると悟ったエイプリルが、味方をしに来たのだ。
「ジョーディは私たちの仲間でもあるんですよ」
エイプリルはさりげなく強調し、身を寄せ合っているジョーディとジェンにうなずいてみせた。
「こっちではジョーダンと呼ばれているんですか?」
「ええ、そうですよ」
ドレクセル夫人がすぐ答えた。 息子が失言しそうで、急いでさえぎったという雰囲気だった。
「ジョーダン・ウェブスターくん。 義理のお父様になる人に、とても大事にされているわ」
クリスが空気の抜けたような声を立てた。 すかさずジョーディが睨んだため、クリスは発言せずに引き下がったが、やがて思いついたらしく、不意に声を上げた。
「もうちょっと早く教えてくれれば、ダブル結婚式ができたじゃないか!」
ジェンは飛び上がりそうになった。
「いえ、私は……」
「待てよ! そんな……」
ジェンとジョーディの抗議が重なり、二人とも口を閉ざして顔を見合わせた。
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