表紙
明日を抱いて
 157 遅く来た客




 ジョーディはすっかり落ち着いて、学校ではもりもり勉強していた。
 そして、授業のある日はほぼ毎日、ジェンをマクレディ家まで送り届けて、その後は必ず引き止められ、家族と夕食を共にした。
 もうジョーディも家族の一員といってよかった。 動物と親しい彼は、赤ん坊の扱いもうまく、ずいぶん歩けるようになった双子と遊び、馬になって乗せてやったり、逆にライオンのふりをして追いかけまわしたりした。 暖炉の前に置く火よけの柵を二枚つなげて折りたたみできる形にして、双子があやまって転がり込まないようにしたのも彼だった。


 厳しい冬はしだいにやわらぎ、永遠に凍りついていそうだったトレメイン川にも、気が付くと細いせせらぎが隠れるようにして流れはじめていた。
 春のきざしがずいぶんはっきりしてきた三月の末は、ジェンの誕生日がある時期だった。 遠く離れているが、手紙のやりとりでずいぶん心が通じるようになった実父に、ジェンは日付を知らせた。


『……私が生まれたのは、三月二八日の午後だったそうです。 もうじき十七だと思うと、不思議な気持ちがします。 でも、もう婚約しているんだし、大人の入り口に立っているわけですよね。 結婚の約束はごく自然に受け入れられたのに、一つ年を取るのが不思議だなんて、矛盾しているのはわかっています。
 ジョーディ・ウェブスターとの婚約に賛成してくださって、とても嬉しいです。 彼は東部の出身なのですが、名前を聞いたことがありますか? 背が高くて、生き物に優しくて、とても頼もしい人です。
 こうやって良いところを並べてみると、なんだかトニーに似ていますが、個性はまったく違います。 面白いですね。 トニーはおしゃれな都会っ子ですけど、ジョーディは自然がとてもよく似合います。
 私と写した写真を同封しました。 彼の友達のジェリー・トーマスが撮ってくれた写真です。 ジェリーはカメラマンになりたいそうで、グランドラピッズの写真館から古いカメラを安く買って、撮影と現像の練習をしています。 修正がなかなかうまいと思いません? 私が二割増しの美人に写ってます!』


 三月か四月にはイースターがあるため、どの学校も大体休みになる。 トローブリッジ高校もその年は、三月二二日から三一日まで春の休暇になっていた。 イースター祭日の決め方が特殊なので、毎年休みの期間が変わるのだ。
 一九○八年は、ジェンが婚約した年でもあり、お祝いは去年より華やかだった。 知り合いの女子はほぼ全員がプレゼントを持ってきてくれ、男子も数人が贈り物をくれた。 そして近所の人も次々祝いの言葉をかけてくれて、ジェンにとってこれまでで最高の誕生日になった。
 ジェンの人気を知っているコニーは、前日までに買い置きの小麦粉がなくなるほどたくさんのクリームマフィンを焼き上げ、訪問してきた祝い客にお返しとして贈った。
 あまりに大量だったので少しは残るかと楽しみにしていたミッチは、結局たりなくなってデザートのクッキーまで渡したと聞いてがっかりした。


 宵の口、山のように積みあがったプレゼントを前に、ジェンは自室でジョーディと向き合い、幸せにひたっていた。
 エイプリルやマージたちは午前中にまとまってやってきて、にぎやかにおしゃべりして帰っていった。
 男子たちは昼食が終わった頃に三人と四人に分かれて現れ、最初の組ではエディが音頭をとって『誕生日おめでとう』の合唱をやり、次のジャッキーたちの組ではヒルビリーのダンスを踊って、ミッチを涙が出るほど笑わせた。
 その後で、本命のジョーディが姿を見せた。 そして二人きりになったジェンに、指輪を贈った。 楕円形のサファイアにダイヤが二つ散りばめられた上品で清楚な指輪だった。
 ジェンは息を呑み、輝く瞳で恋人を見返した。
「まあ、何て綺麗……!」
「君の目の色に合わせたんだ」
 そう言ってジェンにキスした後抱きしめて、柔らかい金褐色の髪を撫でながら、ジョーディは小声で言った。
「君にもう一人、客が来てるよ」
「え? ありがとう」
 急いで玄関に向かおうとするジェンを、ジョーディの手が引きとめた。
「そっちじゃない。 ついてきて」  





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