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156 大人へ一歩
ジェンの友達はだいたいが常識人で、地に足の着いた考え方をした。 だが夢を持たないというわけではなく、キャスがあまりにも現実的すぎるので、ちょっと白けた。
「農家の娘だからって、都会の金持ちと一緒になっていけないなんて思わないわ。 マクレディさんは二人も人を雇っている立派な農場主じゃないの」
ポリーが熱くなって言い返した。 周りもその言葉にうなずいた。 皆に冷たい目で見られたキャスは、大人ぶって笑い飛ばした。
「あら、真剣になって怒らないでよ。 そんなこともあるって言っただけなんだから。 ジェンはお金持ちの家で育ったんだから、結婚したらうまくやっていけると思うわ」
ジェンは奇妙な感覚を覚えた。 確かに社交界のしきたりやタブーはよく知っている。 パーティーの開き方なんかは、そこらのお嬢さんより詳しいだろう。 だがジョーディーはそんな世界を望んでいるだろうか。
言葉を選びながら、ジェンは穏やかに答えた。
「ジョーディは本気で建築家になると思う。 ご両親も許してくれたって。 だから私が上流社会の花形になりたがってるなんて妄想は、今すぐ止めてね。 そんな柄じゃないし」
冗談めかして笑いを取った後、ふたたびなごやかな雰囲気になった。 ジョーディなら建築家がだめでも歌手になれるわよね、とデビーが言い出し、『シェナンドー』を口ずさんだので、みんな発表会を思い出して、話が弾んだ。
親友たちが帰っていった後、ジェンは母の横で靴下の穴かがりをしながら、しみじみと言った。
「毎日のように思ってるけど、ここに来てよかった。 都会の学校にも友達はいたけど、こんなに親しくなれなかったわ。 ここの子たちは親と働いていて、苦労がよくわかってる。 お小遣いが少ないって嘆いている町の子より頼りになるの」
「そうかもしれないわね」
手品のようなすばやさで双子のミトンを編んでいるコニーが、静かに応じた。 この村の女性たちは、ぼうっとしていることはほとんどなかった。 料理・掃除・洗濯と忙しく立ち働き、空いた時間には縫い物か編み物をしていて、手がいつも動いていた。
ジェンの婚約騒ぎがあった二日後、エイプリルが戻ってきた。 だから通学の足はいつも通り確保できた。 しかし、喜んで迎えた級友たちは、わずか二週間でエイプリルが痩せたのでびっくりした。 父が医者をしているマージなどは、健康診断をしたほうがいいんじゃないかとエイプリルに注意したほどだった。
「平気よ。 健康そのもの。 向こうの食事が合わなかっただけなの。 それに行事だらけで。 冬の東部は派手だけど、夜が遅くて、ほんと嫌になっちゃうわ」
エイプリルはそう言って皆に笑顔を向け、実際毎日元気に跳ね回っていた。 ジェンとジョーディのことも、心から喜んでくれた。
「前から願ってたのよ。 あなたたち、お互いのために生まれたみたいな感じだもの」
「えぇ〜? そんなこと考えてたの?」
「そうよ。 マージとハウイのことも嬉しいし。 実はハウイをけしかけたのは私」
そう言って、エイプリルは相変わらず美しい顔をくしゃっとちぢめてみせた。
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