表紙
明日を抱いて
 155 彼の家族は




 学校の新学期が始まる前に、ジョーディは村で友達に会うごとにジェンとの婚約を話した。 だからわずか二日で、二人が正式に将来を誓い合ったことは、近所でも学校でも知らぬ者がなくなった。
 マクレガー家は、たちまち祝福電話の嵐になった。 歩いて来られる娘たちは一人残らずやってきた。 マージにデビーにキャスにサリー、それに冬休みをずらして取ったポリーも駆けつけてくれた。
 そのにぎやかな仲間の中に、エイプリルの姿だけがなかった。 クリスマス当日にはもうウィンタース家の重々しい表門は閉ざされて、鍵がかかっていたそうで、使用人たちも門番と留守番を除いて一家と共に旅立っていた。
「あの旅行嫌いのお母さんまで無理に連れていったんですって。 だからエイプリルの婚約が一番に発表されると思ってたのよ。 まさかのんびりしたジェンがトップで花嫁になるなんてね」
 そう言って、キャスがりんごジュースとメープルシロップで作るほかほかのアップルサイダーを飲みながらため息をついた。
 ジェンはマージと目を見交わし、微笑みながらキャスの勘違いを正した。
「そうじゃないの。 もしかしたら結婚はみんなの中で一番遅くなるかもしれないわ。 ジョーディはこれから勉強して設計家になるのよ。 私も大学へ進学することになると思うし。 二人とも一人前になるまで、ずっと婚約で続くの」
「あら、それは危険よ」
 キャスはずばりと言った。
「決めたら早いほうがいいの。 うちの伯母さんを見て。 十七で婚約をして、相手は東部へ出稼ぎに行ったんだけど、結婚費用が溜まる前に、他の女の人と一緒になって連れて帰ってきたのよ」
「キャスったら、縁起が悪いわね」
 サリーが顔をしかめた。 マージが考えながら、慎重に口を挟んだ。
「それを言ったらきりがないわ。 明日何が起きるかなんて、神様にしかわからないもの。 でもある程度防ぐことはできると思う。 よく連絡を取り合って、お互いをいつも身近に感じていれば」
「ジョーディは裏切らないわよ」
 サリーは確信を持って言い切った。
「うちの弟のドルフに似てるから。 ドルフは好きになったら一筋なの。 ボロボロになったおもちゃでも、私が捨てようとするとまだ使えるって言って、一生懸命直すのよ。 ジョーディにもそういうところがあるわよね。 中学からずっと同じ鞄を使ってる。 上手に縫い直してね」
「へえ、気が付かなかった」
 キャスは口を尖らせた。 彼女は新しもの好きなのだ。
「彼、金持ちなのにね。 サムが言ってたけど、ジョーディは立派な銀の懐中時計を持ってるって。 お父さんからの誕生日プレゼントらしいわ。 そうなんでしょ、ジェン?」
 ジェンはハッとした。 そういえば、まだジョーディの誕生日がいつか聞いていない。
「え? その話は知らないわ」
「そういえば、彼の家族ってどういう人たち? なんで秘密にしてるの?」
「さあ」
 ジェンがあまりにも正直に答えたため、周りは唖然として視線を集中した。
「聞いてないの?」
「ええ」
 ジェンはたじたじとなった。
「私はジョーディが好きなだけで、家族は気にならないというか」
「向こうが気にしたらどうする?」
 キャスは遠慮なく問い詰めた。
「金持ちは金持ちと結婚させたがるものよ。 エイプリルの親父さんを見ればわかるじゃない?」








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