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154 未来を約束
そのキスは、これまでのものとはちがっていた。
ぐんぐん迫ってくる大人のキスで、ジェンは圧倒されて息もつけなかった。
だが間もなく、頭が酔ったようになった。 前後左右に体がゆれ、腕から力が抜けて体の横に垂れ下がった。
顔を離しても、二人はしばらくそのままの姿勢でいた。 ジョーディの胸にもたれたまま、ジェンは前に一度だけ見た男女の激しいキスを思い出していた。
それはもちろん、林の中で抱き合ったエイプリルとディックの姿だった。 まばゆいほどの愛の形だったが、あまりに圧倒的で、自分には縁のない光景だと思わずにはいられなかった。 だが今は……
「結婚しよう」
不意に耳の上で低い声がした。 ジェンはまだぼんやりした頭で、自然にうなずいていた。
「ええ…… えっ?」
何だって?
とてつもない人生の重大事を、さらっと言われた。 ジェンは彼の両腕をぎゅっと掴み、少し体を離してまじまじと見上げた。
「今、何て言ったの?」
ジェンを見下ろしてうつむき加減になったジョーディの顔には、深い斜めの影が差した。 やや大きめで形のいい口が、静かに動いた。
「結婚してほしいんだ。 今すぐじゃなく、僕が一人前に働けるようになってからだから、何年もかかるだろうけど」
うわぁ。
ジェンはまばたきを忘れて、ジョーディを見つめた。 夢のようだった。 学校や近所では認められた仲で、マクレディの両親も付き合いを許してくれていて、ミシガンでは何の障害もないが、彼の養い親は何と言うだろう。
でも、心は決まっていた。 いつも一緒にいてほしい男子は、後にも先にもジョーディしかいない。 その彼が、申し込んでくれたのだ。
前触れがなく、突然だったのが心の奥に引っかかったにしても、ジェンはささいな不安は追い払った。 自然に笑顔がじわじわと広がっていった。
「ジョーディ、私……嬉しいわ。 待つのなんて平気!」
弾む声に、ジョーディも微笑んだ。 そしてジェンをすくい取るように抱きしめると、今度こそ両足が空中に浮いた。
今見送りに行ったはずの二人が、手をつないで戻ってきたため、居間でくつろいで双子と遊んでいたミッチは驚いて顔を上げた。
「おや、忘れ物か?」
「いいえ、そうじゃありません」
ジェンと並んで部屋に入ったジョーディは、眼を輝かせてはっきりと言った。
「僕たち、結婚します」
ミッチの口が半分開いた。 だが言葉を出せず、まずジェンを見つめ、それからジョーディに視線を移した。
そして、いきなり笑顔になった。
「すごいな、おい。 で、ジェンも承知したんだな?」
「ええ、おとうさん」
ジェンが喉に詰まった声で小さく叫び、安楽椅子から立ち上がりかけたミッチに駆け寄って抱きついた。 あまりの嬉しさを表現する道が、他に思いつかなかった。
ミッチはジェンを一度強く抱きしめてから肩をぽんぽんと叩いた。 そして背後を振り返り、台所で明日使う菓子の材料を点検していたコニーに叫びかけた。
「コニー! ジェンがジョーディと一緒になるそうだ!」
ガチャンという音が響いてきた。 たぶん皿が割れたのだろう。 日ごろ食器を大切にしているコニーにしては、とても珍しいことだった。
続いて廊下を駆けてくる足音がした。 次の瞬間、ジェンは母の腕の中にいた。
「ジェン、ジェン、おめでとう!」
二人がバランスを崩してソファーに転がり込んでいる間に、ミッチは娘婿になるジョーディとがっちり握手を交わした。 双子は仲良しの四人が遊びはじめたのだと思い、きゃっきゃっと言いながら仲間に加わろうとして這いずり回った。
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