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153 夜道の勇気
ネヴィルはセクシーなジョーディを見てびっくりした以上に、彼の絵を見せてもらって目を丸くした。
「これは……僕も仕事上いろんな挿絵画家の絵を見たが、これはただものじゃないな。 彼は他にも絵を描いているの? つまり、どこかと契約してるとか?」
「いいえ」
ジェンは誇らしさに胸を張りたい気分で答えた。
「ジョーディは学生ですから。 それにお金に困っていないし」
「そういえば」
ネヴィルは改めて、目を細くしてジョーディの服装を観察した。 ジョーディはネヴィルの評価よりコニーのライスプディングときれいな手をスケッチするのに夢中で、描きあがった絵をジェンに渡しただけで、二人のほうに来なかった。
「確かにいい物を着てるな。 地味だから目立たないだけで。 シャツのカットがボストン風だ」
ボストン?
ジェンは新たな興味を持って、ジョーディの少し型くずれしたシャツを眺めた。 ジェンの実父メイトランド氏の本拠地はボストンだ。 今はフィラデルフィアの郊外にも家を持っていて、手紙は両方から届いた。
ジョーディの義父がお金持ちなら、メイトランド家と知り合いかもしれない。 父はジョーディに会ったことがあるだろうか。 そう考えると、ジェンは胸がときめいた。
その日ネヴィルは、コニーの原稿十二枚と、ジョーディの挿絵四枚を持って、帰りの汽車に乗った。 編集長に見せた結果は、遅くとも翌週の火曜日までに知らせるとのことだった。
「マーシャルさんはあなたの絵をすごく誉めてたわよ。 これはただものじゃないって」
ミッチが戻って家族全員と夕食を共にしたジョーディを門まで送っていったとき、ジェンは彼に笑顔で報告した。
ジョーディは特に喜ばず、人通りの少ない道に残された動物の足跡を眺めていたが、やがて顔を上げて思いがけないことを言った。
「あの編集員、君の後を目で追いかけてたよ」
ジェンはびっくりして、口をぽかんと開けた。
「え?」
ジョーディの軽いしかめ面が、苦笑に変わった。
「気がつかなかった?」
「気がつかないって、そんなこと考えもしなかった」
あなたはどうして気づいたの? と聞き返したかったが、その時さすがにピンと来た。 ジョーディは不愉快だったのだ。 あんなに熱心にスケッチしているように見えたのに、実はネヴィル・マーシャルがジェンの傍を離れないのが気になってしかたがなかったのだ。
うわあ、初めて注目の美女気分が味わえた!──ジェンは嬉しさのあまり、うさぎのように飛び跳ねたくなった。 男性二人が自分を挟んで、暗黙のにらみ合いを演じていたなんて!
デザートにブランデー入りのケーキを食べたせいで、ジェンは珍しくふわふわした状態になっていた。 だからいつになく大胆な気持ちになり、何も言わずにいきなり爪先立ちになって、ジョーディの唇にキスした。
一瞬のことだった。 それでも自分から彼を誘ったのは初めてだ。 空は黒ビロードのように垂れ込めているが、足元の雪が月光を反射して、ジョーディのハッとした表情がよくわかった。
「じゃ、ええと、明日も来てくれる? お母さんがクリスマスプディングをもう一度作るって張り切ってるから」
キスなんてやりすぎた気がして、ジェンは舌がもつれそうな早口になった。 そして一歩下がって門から入ろうとした。
そこをグッと引き戻された。 足が半分宙に浮き、目がくらむほど激しいキスが返ってきた。
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